2010年4月3日、米国でアップル社の携帯端末、iPad(アイパッド)の店頭販売が始まった。1日で30万台が売れたと報じられ、iPhone(アイフォーン)に続く大ヒット商品となりそうだ。出版物の流通など、日本の産業にも大きな影響を与える可能性が指摘されている。なぜ米国企業だけが、世界的な話題を呼ぶ商品やサービスを生み出せるのか。
本気で世界を狙う企業は「ルールづくり」に介入する
――日本企業も頑張ってはいる。しかし、頑張り方が少し違うのだ。日本企業が腐心するのは、ルールが与えられたときに、その枠内で最高を目指すことである。規制や境界条件の内側での競争だ。
現時点において、法令遵守やコンプライアンス(企業活動における法律やルール、社会的規範の遵守)に誠実であることは、企業に必要な条件である。したがって、そのこと自体が悪いわけではない。だが、それはルール構築の際にイニシアティブをとって戦い、ルールが決まった後でとるべき態度である。
国内の企業は、ルールを作るのが苦手である。いや、むしろ嫌いなのではないかと思う。ISO(国際標準化機構。工業標準の策定を目的とする国際機関)やUN/CEFACT(国連・貿易円滑化と電子ビジネスセンター。電子商取引に関する国際標準の策定を主導している機関)のような重要な国際基準を定める集まりに、日本企業はあまり人を出さない。出しても、一線級の人材ではないことが多い。最初からルールが与えられるのを、口を開けて待っているだけという印象を受ける。ルールという縛りがないと、思考がスタートしないのだ。
現在の製品競争や、サービス競争はルール策定の時点で、優劣が決まってしまう。本気で世界を狙う企業は、ルールの策定に積極的に介入し、自分に都合よくルールをいじり、作っていくのだ。
国内企業の態度はお行儀がよいが、それではルールブレイカーであるグーグルやアップルに勝つことはできない。
・・・旧ルールを墨守することは気持ちがいい。何かをきちんとなしている気分が味わえるし、面倒な「思考」からも逃れられる。だが、そうした態度でぬるま湯に浸かっている間に、世界は変わり、優秀な企業は失望の果てに日本を去る――
(岡嶋裕史著『アップル、グーグル、マイクロソフト』光文社新書、170~175頁)
(会社ウォッチ編集部のひとこと)
著者は、日本の企業がハードウェアを過剰に保護し、既存のルールを尊重しすぎることが、「サービスの硬直化や低下」を招いているという。つまり、日本人は生真面目すぎるということだろうか。ビジョンを大きく持って、その達成のための仕事は、明るく前向きに、適度に力を抜いてやる・・・。世界と競争するには、そんな楽観的なスタンスが必要なのかもしれない。