よく、人生は航海にたとえられる。そのたとえに乗っかるなら、世の中には2種類の人がいる。まず、自分の航海図をしっかり見ながら航海している人で、バリバリ進んでいる人もいれば、ほとんど動いていないように見える人もいる。が、総じてそれなりに幸せそうである。
他者との競争には終わりがない
もう1種類は、航海図なんてものはまったく持っていない人たちだ。「そんなので生きていけるのか?」と思う人もいるだろうけど、彼らは彼らなりにテクを持っていて、それは「他の船との距離感で世渡りする」という航海術だ。
と書くとなんだか凄いテクニシャンに思えるかもしれないが、実はこちらが多数派である。実際、以下のような人は身近に一人はいるだろう。
例1「現役で○○大に行った友人がいるから、俺はそれより偏差値上位の東大に行く」
例2「友達は大手のイケメン正社員と結婚したから、私は広告代理店か、外資のエリートビジネスマンね」
1番目は予備校の知人だが、2浪したとは聞いたがその後は知らない。少なくとも東大にはこなかったから、東大を通り越してハーバードにでも行ったのではないか。2番目は20代の頃の友人で、そういうターゲットをゲットできたという話は聞かないので、今頃はたぶんスウェーデンかアラブの王族相手に婚活されていることだろう。
人間は社会的な生き物なので、どうしても他者との比較で価値を決めてしまう。でも他者との競争に終わりはないから、場合によっては自分を袋小路に追い込んでしまうこともある。上記のような人たちは、きっと宝物の傍を通っているのだが、それに気づいていないだけだ。
自分の航海図を持たない人は流される
このことは、サラリーマン人生にも当てはまる。従来の年功序列制度というのは楽なもので、言われたことだけやっていれば年相応の役割と給料を与えられる仕組みだった。20代と40代の給料やポストは大きく違ったが、理由なんて説明する必要は無かったし、そもそも誰もそんなことは気にしなかった。
ただ、現在ではこのシステムは機能不全を起こし、途中でほったらかしにされる人間が増えている。こうなると、40代のヒラ社員は自分で職場以外のアンデンティティーを見つけないといけないし、20代は組織に頼らないスキルを身につけないといけない。いわば「一億大航海時代」の到来だ。
その時、周囲の人間との距離感だけで道を選んでしまうと、必ず後で行き詰まるはめになる。逆転満塁ホームランなんて、誰にでも打てるものではないのだ。
“自分探し”というと、現実逃避で流されているイメージで語られることも多いが、自分が何をやりたいのかさえ分かってない人間は、たぶん、誰よりも流されている。
城 繁幸