会員40万人を集める有料オンライン麻雀ゲーム「Maru-Jan(まるじゃん)」。開発・運営を行うシグナルトークは、ゲームのクオリティの高さとともに、スタッフの働きやすさを重視する経営でも注目されている。
東京・蒲田に事務所を置く「グーグル的経営」
シグナルトークは、栢孝文(かや・たかふみ)氏が2002年に設立。2004年に「Maru-Jan」をリリースした。創業当初はハリウッド映画の制作システムにならい企画単位で投資を募る「プロジェクトファイナンス方式」を採っていたが、現在では栢氏を唯一の株主として、無借金経営を軌道に乗せている。
株主配当は行わず、営業利益の50%(時間報酬型正社員〔後述〕は30%)を従業員に年1回配分する。株式公開の予定もない「株主無視の経営」だ。事務所も華やかな渋谷や六本木ではなく、比較的家賃の安い大田区蒲田に置いている。ハンモックや大画面テレビのあるリフレッシュルームを設けるなど、余裕のあるオフィススペースが魅力だ。
経営ビジョンの「クリエイターの理想郷を作る」は、スタッフ間で話し合って決めたものだが、栢氏自身の苦い経験も色濃く反映されている。
「会社勤めをしていたとき、長期間のプロジェクトに力を注ぎ、ようやく成功を勝ち得たのに、貢献したクリエイターたちに目立った報酬がなく納得できなかった。スタッフは、人生の貴重な時間を仕事のために費やしています。本当にリスクを担っているのは、投資家ではなくスタッフなのです」
社長以外の役職はない。事業方針を含む重要事項は、スタッフ全員が参加する経営会議で議論される。決定は最終的には社長が下すが、多数決を採ることも。会社のあり方を自分たちで考え実行に移していく風通しのよさは、米グーグルの経営スタイルを思い起こさせる。
ただし、スタッフは少数精鋭で、役割の達成が厳しく求められる。毎月100人以上の求職者のアクセスがあるが、採用に至るのは1%未満。学歴や職歴は問われないものの、職務を全うする高いスキルや意欲が必要だ。年4回、上司・同僚・部下からの「360度評価」によって賞与の配分が決まるので、自分勝手な行動は認められない。
「成果型社員」はコアタイム以外の出社が自由
ゲーム会社というと、長時間労働が日常的というイメージがあるが、シグナルトークでは毎月、原則として第一金曜日を「ハッピーフライデー」とし、有給休暇の半日取得を促進している。土曜出勤は社長の許可制で、日曜出社は禁止だ。
スタッフの労働形態は、午前10時から午後7時まで勤務する「時間報酬型」と、午後1時から6時のコアタイムがある「成果報酬型」の2種類。時間型は原則として定時退社で、残業した場合の成果が厳しくチェックされる。
「成果型は、成果をきちんと上げていればコアタイム以外の出社は自由です。残業代は支払われませんが、導入に当たり労働基準監督署に相談して、時間型と自由に選べることを条件に認められました。会社がどちらかを強制することはありません」(栢氏)
現状では、成果型を選んだスタッフが約9割。ただし成果型であっても、社長が働きすぎと判断すれば休養を命じる。その他、冷蔵庫に無料で飲める野菜ジュースを常備するなど、体調管理に気を配る。
また、社内コミュニケーションを円滑するために、オフィスの中心にミーティングデスクを置く。打ち合わせはオープンに行われるので、内容に応じて途中から参加したり、オブザーバーとして耳を傾けたりすることもできる。
メールは原則として、スタッフ全員に同送しており、誰が何をしているのかが明らかだ。栢社長は、開かれたコミュニケーションを進める理由を、
「問題を最適な方法で解決するためです。また、ムダな作業をしたり、急がなくてもいい仕事で徹夜をしたりして、生産性を下げることも避けられます」
と説明する。工学系の大学院を修了した社長らしい、徹底して合理的な考え方である。10年3月には新しいオンライン将棋ゲーム「遊び処 ふくろふ」のオープンβテストを開始。「Maru-Jan」とあわせ、今後増加が見込まれるシニア層のユーザーを取り込むしかけを行っていくという。