新規起業しない日本人 本当にヘタレなのか

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   昨2009年末に、民主党が経済成長戦略の基本方針を発表した。輸出の大幅な伸びが期待できない中、新規産業の創出が重要なテーマと位置づけられている。それ自体は正しいのだけど、なかなか日本においては新規起業による産業の創出がうまく進まない。むしろ、起業意識は年々低下しているというニュースもある。

   そんなわけで「日本人は保守的」だの「リスクを取る気概がない」という意見もよく聞く。本当に日本人はヘタレなのだろうか。

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海にもぐって魚を獲るのはタフガイの仕事のはずだが

   日本人がリスクを取らない理由は、単純に“リスク”がとんでもなく大きいからだ。新卒で起業するにせよ、正社員として地力をつけてからにせよ、それは正社員身分を捨てるということを意味する。

   日本における正社員制度は、手厚く規制で守られて、非正規雇用という奴隷もいて、さらに(大手限定だが)経営ピンチになると国が金まで出してくれるという、ちょっと他国ではありえない美味しい身分だ。

   しかも、そちらに入れるのは原則として新卒採用の一回限り。となると、優秀な人材は当然こちらを目指してしまう。要するに起業という博打の掛け金があまりにも大きすぎるわけだ。そこから漏れた人たちに対してだけ「起業でもなんでもしろ」というのは、ちょっと酷な話だろう。

   まあ大多数の中産階級にとっては、そういう可哀相な人たちが野垂れ死にしようが何しようが、ぶっちゃけ関係無いのだろうけど、もう少し話を聞いて欲しい。実は、こういう流れは人材マネジメントの観点からいうと、非常に問題の多いものだ。

   たとえば、絶海の無人島に10人ほど漂着したとしよう。砂浜に流れ着く椰子の実を拾うのは楽だが、全員を養えるほど落ちているわけではない。海に入ると魚がたくさんいるが、泳ぐのはめんどくさいし、たまにサメもいる。当然、泳ぎに自信のあるタフガイが海に、そうでない弱者がビーチをうろうろするのが効率的だ(言われなくても普通はそうするだろう)。

「資本家が悪い」と「自己責任だ」では外国に勝てない

   だが、仮に腕っ節の強いやつらが、楽な椰子の実拾いを独占したらどうなるか。全体の生産性は確実に低下するはずだ。要するに、能力のある人間がある程度リスクを取ってくれるようなシステムがないと、人材の適所適材が進まず、全体は必ず伸び悩むということだ。

   これこそ、日本経済が過去15年にわたって低迷し続けている原因だろう。本来ハイリスクに挑むべき人材が大企業に入り、規制によってそこそこのリターンを独占&満足する。そうでない弱者がローリターンな底辺で働き、二階部分のハイリスクまで引き受ける。本当は雇用システム全体をパッケージで見直すべきなのに、保守派は「自己責任だ」とふんぞりかえり、共産党は「資本階級が悪い」と赤旗の拡販に利用する。

   そりゃ一人頭GDPでシンガポールに負けるはずだ。こんなおかしなことやってる国は他にないのだから。全体のパイを増やすには、魚獲りも椰子の実拾いも、後から自由に行き来できるような仕組みが必要なのだ。

   なんて発想は連合というケツ持ちのいる民主党にはさらさら無いようなので、もうしばらく苦難の時代は続くはず。椰子の実を拾う人は低い労働生産性を長時間残業で、海に入る人はリスクを気合でカバーするしかなさそうだ。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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