早いもので、この連載も最終回を迎えることになりました。今回はまとめの意味も兼ねて、私自身がブログを書いたり、ネット生保の経営者としての活動の中で感じた「ネットの本当の影響力」について書いてみたいと思います。
大勢への伝播力ではネットはテレビに「まだまだ敵わない」
まず、過去のエントリーでも指摘したことですが、多くの人への伝播力という点では、ネットの影響力はテレビと比較して極めて小さいと感じています。ネット上で記事や動画が話題になったとしても、それを知っているのは一部のヘビーユーザーだけであり、ネット外の世界で話題になることはほとんどありません。バラエティ番組がきっかけで納豆が売り切れになることはありますが、人気ブログで取り上げられたものがリアル世界で売り切れるということはあまり聞いたことがありません。
ライフネット生命保険の経験でも、記事やプロモーションがネット上で話題になったときでも、業績を一変させるほどの事例は少ないのが実情でした(もちろん話題性が足りなかっただけかもしれませんが)。この意味で、6千万人といわれるネットユーザーも、大半はニュースをさらっと眺めたり、ネットショッピングやSNSなどを限定的に使っているだけのように感じますし、本当の意味でネットを「使いこんでいる」人の実数はそれほど大きくないように思います。
一つの例外は、ヤフーのトップページに「保険の原価開示」のニュースが流れたときでした。このときは当社のホームページにアクセスが殺到し、波及効果もあって、申し込みは対前月比で1.5倍になりました。これは、ヤフーのトップページという媒体が、全国ネットのテレビ並みの「視聴率」を誇っているからだと考えます。
このときの情報の流通経路を考えると、「記事がネット上に掲載→はてなブックマークがたくさんつく→話題のニュースとしてヤフートピックスへ」ということでした。言うならば、ブックマークをした一人一人のユーザーの「一票」が積み重なり、最終的にはリアルな業績拡大につながったわけです。
こういった「間接ルート」では、ネットが現実世界に影響を与えた、と言えるでしょう。
「個人の発信力」は間違いなく高まっている
もうひとつ確実にあるのは、評論家や作家、政治家など、世の中に影響力がある人に対する「個人」の発信力の増加です。桁違いのアクセスを誇る芸能人クラスでない限りは、自身が書いた書籍やブログ、記事へのコメントには、一通り目を通していると思われます。梅田望夫氏も、自身の著書について書かれたすべてのブログ記事に目を通したと語っていました。
それは従来のように「編集部へのファンレター」という形とは異なり、一人の読者から著者に向けたダイレクトのメッセージとして、あたかも目の前で本人に直接語っているかのような臨場感を持って届けられます。
匿名で中傷めいたコメントは素通りされるでしょうが、きちんと名乗った上で真摯に語られた意見は、著者に確実に届いているものです。そして、その内容は著者の新たな発信を通じて、間接的にではありますが、世の中に影響を与えていくことになるわけです。
私たちも、ネットを通じてダイレクトに一人一人のお客様とつながり、真摯にその意見に耳を傾けることで、よりよいサービス作りを目指しています。それは例えば従来の保険会社のように、全国各地の営業所の営業職員経由で何層の人を隔てて届けられる声とは、説得力や影響力という意味では圧倒的に異なります。
その意味で皆さんには、影響力ある人に向けて積極的にメッセージ(レスポンス)を発信して欲しいと考えます。09年10月に放送されたテレビ朝日系の番組「朝まで生テレビ!」(テーマ:若者に未来はあるか?!)にウェブ上の論客たちが出演し、ネットを使わない世代と議論を交わしましたが、ネットの影響力を高めていく上で、このような機会が増えることは重要でしょう。
ネット上で世の中を動かすムーブメントを興したり、ネットが普及して政治家がいらなくなる時代が来るのかどうかはまだ分かりませんが、確実に言えることは「一人一人の個人の発信力は間違いなく高まっている」という事実です。この機会を利用して、積極的な情報発信をされることをおすすめします。
岩瀬 大輔