先週末、朝まで生テレビに出演した時のこと。番組で用意されていた年金制度説明のフリップにミスがあった。今週号(2009/10/31)の『週刊東洋経済』でも同様のミスが見られる。具体的には、厚労省の大本営発表による間違いに基づいて書かれてしまっているのだ。
まだまだ誤解も多いようなので、簡単にまとめておきたい。
厚労省は「保険料の2.4倍受け取れる」と嘘をついている
04年の改革で、マクロ経済スライドなどが導入されたことで、将来の給付に一定の制限をもうけたため、年金の維持可能性は高まった。ただし、仮に維持可能だとしても、問題は多く残る。
①世代間格差高齢者の年金を現役世代の保険料で賄う賦課方式は既に限界を超えており、厚生年金でいうと、現在の60代に比べて、20歳の若者は3000万以上も損をしている。「でも破綻はしないだろう」と言うのは屁理屈にすぎず、それで納得する若手がどれほどいるだろうか?
ちなみに、厚労省は企業負担分を意図的にカウントせず「1975年生まれであれば、納めた保険料の2.4倍受け取れますよ」と嘘をついている。企業負担分というと聞こえはいいが、結局はそれだけの働きを会社から求められているわけで、実質的には給料の一部を天引きされているのと同じことだ。というわけで、だいたい65年以降生まれは1.0割れ、全員払い損というのが実際の姿である。
②未納者問題未納者の中には払いたくても払えない非正規雇用労働者が多く含まれる。年金肯定論者は「未納者が自分の年金を貰えないだけなので問題ない」というが、彼らの老後はどうなるのか。
そもそも、弱者の老後も含めて、広く社会で負担するシステムを作りましょうというのが公的年金制度であるはずだ。生活保護で面倒見ろというのは、将来世代へのツケの先送りではないのか。
世代間格差の拡大を防ぐには「民主党案」の方がマシ
上記のような論点は、ほぼすべての経済学者やエコノミストが指摘していることで、コンセンサスは成立していると言っていい。にもかかわらず、こういったゴマカシを厚労省がするのは、保険料として自分たちの支配下におきたいがためだ。
現行制度が限界であると認めてしまえば、恐らく消費税による税方式へ移行することになる。となると、厚労省の手を離れ、財務省管轄になってしまう可能性が高い。それがイヤだから、御用学者やOBを使って懸命に「年金破綻なんて誰が言った?」とPRしているわけだ。
少なくとも払い損には納得できないという若者、そして、将来に不安があるという弱者にとっては、積立方式へ移行するしかなく、少なくともこれ以上の世代間格差拡大を防ぐには、民主党の年金改革案の方が百倍マシだと断言しよう。
それでもなお、
「未納が増えると年金が破綻するって誰が言った?」
と聞いてくる阿呆がいれば、とりあえず城繁幸が言っていたと答えてもらって構わない。
城 繁幸