今から数週間前、9月末のこと。あるウェブサイトの運営実態に関する記事が、ネット上で話題になりました。「どうでもいいことを真剣にリポートする日刊更新サイト」である@ニフティ「デイリーポータルZ」(DPZ)です。
月間1800万PVを誇るこの人気サイトは、これまで無料で運営されてきたのですが、本社から「お金をもうけろ」との指示を受け、有料携帯サイトの開設を発表したのです。
普通であれば、これまで無料だったサービスを一部でも有料にするには、ユーザーから相当の反発を招きかねないものです。しかし、今回はそのようなことはなく、ファンを中心にむしろ応援する声が多数あがりました。
「なんかいても立ってもいられなくなったので入った。100円だし」
「デイリーポータルZ 不況に負けずがんばれ~。デイリーなら有志の広告募っても手を挙げる人いるんじゃないかな」
「全力で支援。DPZ潰したらnifty解約する」
人気サイトとはいえ、なぜ、ここまで応援してもらえたのでしょうか。それは、ひたすら同サイトが「本音が見える」情報開示と、「共感を呼ぶマーケティング」を実践してきたからだと考えます。
どの広告よりも強力だった「ハトが選んだ保険に入る」企画
このサイトはこれまで、数多くの独創的な企画でユーザーを魅了してきました。たとえば「知らない人の結婚式の2次会に混ざる」という企画。ややもすれば顰蹙と捉えられかねない突飛な行動ですが、きちんとインスタントカメラを持っていて、参加者全員の写真と感謝メッセージを作って届けて、感謝されて退席した企画はエンターテイメント性に富み、見事としかいいようがないものでした。
また、この夏、ライフネット生命保険が協力した「ハトが選んだ生命保険に入る」という企画も反響を呼びました。アクセスやブックマークをたくさん集めただけでなく、実際に記事をきっかけに生命保険に加入した人が多数おり、非常に高い効果を示したのです。
不思議なのは、この企画は先方からの持ち込みで、当社は一切広告料などを支払っていないこと。そして記事には商品や会社のセールスポイントを訴求する内容はほとんど含まれておらず、「おバカな企画に老練の社長が真剣に付き合う」というものに過ぎなかったのです。
にもかかわらず、記事への反響が大きかったのは「どうでもいいことを真剣にリポートする」というDPZの姿勢と、それに真剣に付き合った当社の社長の姿勢が、多くのユーザーの共感を呼んだからではないでしょうか。
「大赤字」のコスト構造を開示
このようなDPZが有料サイトへの移行を発表するにあたっては、「ユーザーのことを思うと、有料化は悩ましい」という名物編集者の悩みをインタビュー形式(さみしげな後姿の写真付)で公開するとともに、大赤字で運営されている実態をつまびらかにしたのです。曰く、収入が月80万円に対して、運営コストが月800万円だというのです。
これには2つの効果があったと思います。通常は意識することがない、メディアが作られていく際にかかるコストの実態を、当事者の悩める心境とともに、ユーザーに認識させたこと。加えて「自分たちが助けなければ」という意識を芽生えさせたことです。
私たちライフネット生命も、今からちょうど1年前、これまでブラックボックスとなっていた生命保険の「原価」を開示したことで、反響を呼びました。ここには、私たちの様々な思いが込められており、同時に社長の出口がその思いをブログにて公開しました。
DPZの「有料化」の試みは、圧倒的な資金力で消費者に広告を浴びせてモノを「買わせる」時代から、その商品サービスが作られていく過程や想いを明らかにし、ユーザーに共感してもらってはじめて「選ばれる」時代が到来していると感じさせられる、いい例だったと思います。
岩瀬 大輔