不況の影響で、就職先が決まらない学生が増えているという。大手企業が採用を絞り込んだ影響が大きいが、学生の「大手志向」も関係しているという説も聞く。ある雑誌で有識者が自分の子どもを入れたい会社ランキングを発表したが、大手以外の会社も少なくなく、一般的に無名の会社もあった。就職活動の参考になるのではないだろうか。
学生人気の「東京海上日動」「JTB」 親の投票は1票ずつ
『週刊現代』の2009年10月24日号では「息子・娘を入れたい『いい会社』ベスト100・2010年版」を掲載している。ビジネス界に身をおく有識者34名が、自分の子どもを入れたい「いい会社」を選定。「該当なし」と回答した野口悠紀雄氏を除く33名が5社ずつ挙げて、のべ165社(票)の内容をリストアップした。
獲得票数の上位は、三菱商事とファーストリテイリングが7票でトップ。次いでパナソニックと任天堂が5票となった。このほか、IT企業のディー・エヌ・エーやドワンゴ、経営コンサルティング会社のリンクアンドモチベーションなどの新興企業、「ベアーズ」や「きのとや」など一般に知られていない会社を挙げる人もいた。
ここで挙がった会社名は、学生(子ども)による人気ランキングの傾向とはだいぶ異なっている。たとえば日本経済新聞の「就職希望企業ランキング」(2009年2月)でトップだった東京海上日動火災保険は、「親」の投票ではたったの1票。毎日コミュニケーションズの「大学生就職人気企業ランキング(文系総合)」(2009年3月)でトップだったJTBグループも1票のみだった。
企業名や選定理由を比べてみると、親は子どもの将来を考え、会社の成長性や人材育成力の高さで選んでいるのに対し、子どもは不況を背景に会社の規模や安定性、一流企業のイメージで選んでいるという見方もできそうだ。昔は、親が子に「寄らば大樹の陰だ」「故郷に錦を飾れ」と言っていたような気もするが、いまは逆転しているということか。
結局は「一生を託すに足る企業はない」時代になった
このような差が出た理由は、子どもは社会経験がなく企業の内部事情に通じているわけでもないので、イメージで判断せざるをえないという事情がある。とは言え、親であっても産業全体を俯瞰して選ぶことはむずかしく、自分が得意とする分野で成長している会社に限られることが多い。
例えば、IT分野に詳しいジャーナリストの佐々木俊尚氏はドワンゴ、元『リクナビ』編集長の前川孝雄氏はサイバーエージェントを1位に挙げている。不動産コンサルタントの長嶋修氏は東急不動産、レアメタル専門商社社長の中村繁夫氏は住友金属鉱山が1位だ。営業コンサルタントの和田裕美氏は「社長自ら素手で便器を洗う」イエローハットを推している。
これらの企業が選ばれた根拠は十分にあるだろうが、子どもから見たら「本当に将来も、安定成長できる会社なの?」という声が出るかもしれない。
しかし、親も、自分が知る限り勉強になる会社だと思うから、とりあえず揉まれてこいという範囲で考えざるを得ない。唯一「該当なし」と回答した野口悠紀雄氏も、
「日本企業は現在きわめて低い収益状態を続けており(略)一生を託すに足る企業はない。独立して起業する人間になって欲しい」
とコメントしている。最終的には、どの会社も当てにはならない。「どこでも自分で生きていける力をつけておけ」というのが、親の隠れた本音と言えるだろうか。