政府が雇用対策に本腰を入れるようだ。それとの絡みだろう。記者さんから、よくこんな質問を貰う。
「有効な雇用対策にはどのようなものがありますか?」
公共事業も助成金も「無駄」には変わりがない
答えは、「ありません」だ。冗談で言っているのではなくて、有効な雇用対策なんてありえないのだ。残念ながら、これは世界的な常識である。
そうはいっても無いの一言で済ませては不親切なので、有効でない雇用対策について説明しておこう。大きく分けると、日本がとりえる雇用対策は2つある。
戦後しばらくは、不景気には公共事業によって職を生み出すという政策が採られていた。この方式は、社会インフラが未整備な新興国では今でも有効だが、成熟した先進国ではほとんど意味がない。国が「これを作るように」と言って命じた仕事は、たいてい無駄なハコモノというのは、世界共通の現象である。そのため、欧米では70年代に廃れてしまった。
日本は後発国だった分、今でもこの政策を支持する人は一部にいる。それでも90年代、100兆円を超える公共事業を乱発してもまったく効果が無かった点から、今では多くの国民は公共事業に否定的である。
2つ目は、前政権が大盤振る舞いでばら撒きはじめた雇用調整助成金だ。これは仕事の無い企業に対し、従業員の給料を肩代わりするもので、いわば社内失業者を税金で雇わせるようなものだ(最大9割、300日間)。公共事業で空港やダムを作っても意味が無いので、直接配ることにしたわけだ。ダムと違って維持費がかからない分マシではあるが、それでも無駄という点で変わらない。
国の役割は規制緩和で「新規参入」と「競争」を促すこと
というわけで、有効な雇用対策なんてものは存在しないのだ。結局のところ、各人の努力でなんとかしてもらうしかない。これが過去30年ほどの間に、先進国がたどり着いた結論である。
よって、国の役割は、民間がなんとかしやすくなるような環境をお膳立てしてあげることである。具体的に言えば、規制緩和によって新規参入と競争を促し、企業が職を増やしやすくする。斜陽産業から需要のある産業へ、人もお金も移動しやすくする。そんな制度を整備することだ。
ちなみにEUでは、解雇規制を緩め、かわりに研修や失業給付を厚くするというフレクシキュリティという考えが浸透しつつある(デンマーク及びオランダが有名)。あえていえば、こういった「変化を前提とした政策」こそが、21世紀の雇用対策と言えるかもしれない。
企業寄りだった自民党政権であれば、間違いなく公共事業を増やしただろう。逆に民主党は、支持基盤である連合から、自分たちへのバラマキ額(=雇用調整助成金)を増やすようプレッシャーを受けるはずだ。
民主党が本気で日本を変える政党になるか、それとも単なるプチ自民で終わるか。それを占う意味でも、彼らの判断には注目したい。
城 繁幸