2009年の秋冬は、新型インフルエンザの感染者の増加が予想されている。集団感染で学校閉鎖となっているところもあるようだ。ひとつのビルに何百人という従業員を抱える大手企業では、感染の拡大予防などの対策が本格化している。
感染者と同じ会議に出た人は「濃厚接触者」に
「うちの部でも、ついに出ましたよ!」
都内大手企業に勤めるCさんの職場では、9月第2週から1週間、部のメンバー全員に終日「強力防御マスク」の着用が義務付けられた。「新型インフルエンザの感染拡大」を予防するためだという。
Cさんの会社では、7月に新型インフルエンザの感染者が出た場合の「対応ガイドライン」を通達。ビルの入り口には「体調の悪い人は入館を控えるように」という旨のポスターが貼られ、アルコール消毒のスプレーが置かれた。
病院で「A型インフルエンザ」の陽性判定を受けた社員は、原則として1週間の自宅療養を命ぜられる。新型かどうかの検査は不要で、「いまインフルエンザにかかる人は、たぶん新型」と判断されている。
感染者は、発症前日に行動を共にしていた人をリストアップし、会社に連絡しなければならない。どの会議に出たのか、どこのクライアントに誰と行ったのか、などを箇条書きで提出する。
リストに挙げられた人は「濃厚接触者」とされて、会社から毎日支給されるマスクを1週間、終日着用する。就業後、マスクは回収され、密封したビニール袋にまとめて廃棄される。今回は、Cさんの左隣の席の人が感染者となった。
「彼は数日前から身体がだるかったようなのですが、重要な会議があって休めなかったんですね。だから感染が明らかになってから3日もさかのぼって、会議に同席した人とか、一緒に昼食を食べた人とかが、みんな濃厚接触者とされてしまったのです」
各家庭における食料品・日用品の「買い置き」も奨励
他の部署にもそれぞれ感染者がいるので、社内のマスク人口は増えるばかりだ。
「マスクをした人同士が『あなたは誰の濃厚接触者?』というのが、あいさつ代わりになっています(笑い)」
職場では、感染者が触れた可能性のあるところを、委託業者が一斉にアルコール消毒していく。オフィスやトイレのドアノブ、エレベーターのボタン、感染者の机や電話機、会議室など、あらゆる場所が対象だ。感染者が多く出た部署では、クライアントとの打ち合わせを取りやめるところもでてきた。
ただ、Cさんには少し気になっていることがある。
「うちの課長の娘さんが感染したらしいのです。本来は家族が感染した場合にも濃厚接触者になるのでしょうけど、ガイドラインにはそこまで書かれていない。もっとも『家族が感染したら自宅待機』となったら、仕事がストップしてしまう部署も出てくるんじゃないですかね」
最近、会社は従業員に、あらかじめ食料品や日用品を家庭に買い置きすることを奨励しているそうだ。感染拡大が深刻になり「家から一歩も出られない」場合を想定してのこと。この「新型インフルエンザ問題」、かつての「2000年問題」のように、結果として社会的に大きな混乱が起きずに済むとよいのだが・・・。