もう夏も終わりだが、まだ来春卒予定の学生の就職活動は終わってはいないようだ。複数の大学主催による合同セミナーも適時開催されている。そろそろ11年卒向けのセミナーも始まるから、先輩後輩が仲良く揃って就職活動なんてこともありえるだろう。去年までの極楽売り手市場が嘘のようだ。
大手企業は「正社員の厳選化」でハードルが上がっている
そんな状況もあってか、よく「90年代後半の就職氷河期と今と、どっちが大変ですか?」という質問をもらう。新卒求人倍率だけを見れば、今年は1.62倍なので、氷河期というには程遠い(ちなみに底は01年の0.99)。
ただ、90年代と今では状況が大きく変わっているので、単純に数字で比較はできない。以前も述べたとおり、採用アプローチの多様化、正社員の厳選化によってハードルが上がっているためだ。特に重要なのは後者だろう。
新卒一人採用するということは、生涯賃金3億+社会保険コストで大手なら5億円くらいのコストを負担しなければならない。日本経済に復活の兆しが見えない中、それだけ投資してまで採ろうというのは「ごくごく一部の幹部候補だけにしたい」という企業が大半だろう。
NECのように、前年比9割減なんてことになるわけだ。他の大手も、枠はあけていても妥協してまで採るつもりはないので(後から中途や第二新卒で採れるから)、大手志望の人にとっては今年のほうがきついはずだ。
余談だが、採用抑制で浮いた仕事については、非正規雇用の活用、もしくは海外発注で済ませることになる。新政権は前者を規制すると言っているから、当然、後者が増えるだろう。「内需拡大!」なんて言ってはいるが、彼らがやろうとしていることは逆である。
「終身雇用」が保証されない中小企業なら求人はある
さらにいえば、売り手市場から買い手市場に急変したという点も大きい。日本型雇用は、一度与えてしまった既得権の見直しは許されないので、既存社員と応募者の間でいかなる競争原理も働かない。つまり、新卒求人倍率が2倍を越えていた07、08年あたりに入れ食い状態で入ってしまった人がいたとして、今年応募した学生の方がはるかに優秀だったとしても、切り捨てられるのは100%後者だ。
「やばい、ここ数年、調子に乗って採りすぎてしまった…」という人事担当者は日本中にいるはずだが、そのツケを払うのは来年以降卒業する学生諸君だ。不条理だと感じる人も多いだろうが、「年長者が偉い」というのは日本が世界に誇る美しい文化なので諦めよう。
というわけで、「終身雇用で、しかも年功序列」という日本型雇用のサロンに入れてもらえるのは、一部の幸運者だけになりそうだ。
もちろん、そうでない人にも、ちゃんと働き口はある。上記のロジックでいくと、終身雇用が全然保証されていないような小さい会社であれば、そのぶんハードルは低くなるわけだから、探せばいくらでも求人はあるはず。まだ内定がないという人は、企業名や規模にこだわらない就職活動をするといい。
城 繁幸