ウェディングフォトグラファーという仕事がある。結婚式の写真を専門に撮るカメラマンのことだ。最近では新郎や新婦から指名されて、そのカップルの晴れ舞台の撮影をまかされるフリーのカメラマンも出てきているが、そのやりがいはどこにあるのだろうか。
バイト感覚のカメラマンには撮られたくない
安澤剛直さんはスタイリッシュな写真を得意とする
東京・八丁堀に事務所をかまえる安澤剛直さんが本格的に結婚式の撮影をするようになって約10年になる。依頼者である新郎や新婦と事前に最低1回は打ち合わせをして、式にのぞむ。式の進行を確認するとともに、「コミュニケーションシュート」と呼ぶテスト撮影もして少しでもカメラに慣れてもらう。
「以前、結婚式場の写真室から仕事をもらっていたときは、式の当日に新郎新婦と会って、バタバタしたなかで撮影しなければいけませんでした。それでは、なかなかいい写真が撮れないんですよ」
安澤さんはもともと広告関係の写真を主に撮影していた。しかし、ひょんなことで結婚式場の仕事をしたときに、出会ったカメラマンの言葉にショックを受けた。
「そのカメラマンの女の子は『本当は広告や雑誌の仕事だけをしたいんだけど、仕事がないから仕方なくアルバイトでウェディングの撮影もしている』と話していました。それを聞いて、自分の結婚式をこんなカメラマンに撮られたくないなと思った。自分自身が撮ってほしいと思えるようなフォトグラファーになろうと、今まで続けてきたんです」
実際、結婚式の写真撮影は、ふだん全然関係のない写真を撮っているカメラマンがアルバイトで請け負うことが多い。結婚式場からカメラマンに支払われる日当は平均1万5000円くらい。決して高い報酬とはいえないため、プロの仕事として本気で取り組む人は少ないのだという。
「一生大切にしてもらえる写真」を撮る仕事
曽根川晶子さんの写真は、明るくて、表情豊かなのが特徴だ
「業界の中でのウェディングフォトグラファーの地位は決して高くありません。昔は僕も『ウェディングの仕事をしている』と友人に言いづらかったですね」
そう語る安澤さんだが、いまは「最高に幸せな瞬間」を記録するこの仕事に誇りを感じている。それだけでなく、ウェディングフォトグラファーの団体「TWP」(Top Wedding Photograph)の一員として、セミナーを開催するなど地位向上のための啓発活動を行っている。
フリーのカメラマンとして東京を拠点に活動している曽根川晶子さんは、TWPのメンバーの一人。その経歴はユニークだ。
「もともとは通訳になりたくて英語の専門学校に行っていたんですが、希望の会社に就職できず、たまたま内定をもらったのが写真の会社だったんです。最初は営業の仕事をしていましたが、途中から撮影をまかされて披露宴のスナップ写真を撮るようになり、そちらのほうが面白くなってしまいました」
その後、ウェディングスナップを専門とする写真事務所を経て、独立。結婚式や家族の写真撮影に力を入れた活動をしている。「撮り直し」がきかない結婚式の仕事には、独特のプレッシャーがある。式や披露宴が長くてもシャッターチャンスは意外と少なく、その進行を妨げずに2人が満足する写真を残さなければならない。機材を担ぎながら半日以上動き回ることもあり、体力的にもハードだ。それでも、「一生大切にしてもらえる写真」を撮る醍醐味はなにものにも代え難いという。
「ウェディングフォトグラファーという存在をもっと知ってもらいたい」という安澤剛直さん(左)と曽根川晶子さん
「新郎新婦との距離を少しでも縮めるために、『親戚のおばちゃんか、幼なじみがひとり増えたと思ってくださいね』と伝えています。私自身も親戚のおばちゃんみたいな感覚になって、生い立ちビデオとかを見て、涙してしまうこともよくあります」
という曽根川さん。安澤さんも、
「最初から最後まで新婦とずっと一緒にいることが多いので、コミュニケーションはとても重要です。最近はカメラが良くなっているので、誰でもそこそこの写真は撮れますが、『気持ち』が入っているかどうかで写真に差が出るんですよね」
と話している。