最近の新聞で、「国民年金の実質納付率、3年連続50%割れ 空洞化進む」といった記事が掲載されていました。
確かに、これだけ読むと、半分以上の人が納めていないのだから、将来年金がもらえなそうな気がするし、正直に払うのがバカらしい、と思ってしまうかも知れません。
しかし、この理解は間違っています。キャッチーな見出しを好むマスコミの報道を鵜呑みにせず、生の数字をきちんと見て行くと、年金制度が空洞化しているというのはまったくの誤解であることが分かります。
実際には「9割弱」の保険料は徴収できている
まず、この「50%割れ」という数字は、狭い意味での国民年金、つまり「第1号被保険者」と呼ばれるサラリーマン以外の自営業者や学生の方々、約2000万人を対象としています。このうち、平成20年分の保険料を完納した人数は800万人強。この数字だけを取り出すと、4割の人しか納めていないように見えるかも知れません。
しかし、そもそもこの中には、低所得者層など保険料免除の対象となっている人たちもいます。これらを除いて、実際に納められるべき保険料の総額に対して徴収できた保険料を見ると、約6割だそうです。
そして、ここが大きなポイントなのですが、「国民皆年金」の基礎をなす基礎年金の部分を支えるのは、第1号被保険者だけではなく、約3900万人いるサラリーマン層の「第2号被保険者」が納める保険料です。これら2つを足した約5900万人いる被保険者が母数となります。
すると、未納となっているのは、第1号被保険者のうちの約4割ですから、全体に対しては13%程度となります。したがって、全員が強制加入している基礎年金部分については、9割弱の保険料は、依然として徴収できていることになります。
さらに、保険料を未納している人たちは、将来、国民年金の給付を受けることができませんので、彼らに対する給付の財源は不要となります。また、正確には分からないのですが、将来の予測を立てるに当たって、そもそもある程度の未納者が出ることは織り込み済みであると考えられます。
13%の不足というのは決して小さくはないのですが、このような国民年金の未納率をもってして、「年金制度が根幹から揺らいでいる」というのは、大きな過ちです。
老後の主な収入は「国民年金」。あとから気づいても手遅れだ
もちろん、中長期的な問題として、少子高齢化によって人口構成が大きく変わるなか、高齢者と現役世代の負担と給付のバランスをどのようにして取っていくか、という問題はあります。しかし、それは給付率がいくらか下がるか、負担が増えるという問題であって、「制度が破綻する」ということではありません。
そもそも、死ぬまでの間ずっと、一定額の給付を保証するという終身年金は、民間保険会社が運営するならば、多額の払い込みを要する商品です。それを国ができるのは、公的保険は世代間や世代内で所得の再分配を行えますし、何より不足したときには他の財源を導入できるからです。これに対して、民間保険は所得の移転はないですし、他の財源を活用することもできません。
一般論として言うならば、年金も保険も、民間の保険会社などで準備するよりも、公的な保険の方が有利であり、最大限活用すべきです。何よりも、自己責任の名で課せられる運用リスクの負担や、大きな管理コストを国に転嫁することができるからです。
現在の高齢者世帯の収入の7割が、年金だそうです。年金保険料を納めていない人たちは、年金をもらえません。将来、この不足分をどのように補うのでしょうか。年をとってから気がついたのでは、とっくに遅いはずです。
公的健康保険制度にせよ年金制度にせよ、制度が健全に持続する上では多くの課題があることは否定しませんが、だからといって、制度自体を否定したり、その利用を拒むことは、決して望ましいことではありません。自分自身の大切な将来に関する事柄、きちんと理解して意思決定をしたいですね。
岩瀬 大輔