決して能力がないわけではないのに、いわゆる「勤勉なイメージ」とは遠く、どこかつかみどころのない社員。あなたの部下には、こんな若者がいないだろうか。山本直人氏は著書の中で、このような社員を「ネコ型社員」と呼び、彼らを上手に成長させていくことは「会社にとっても、社会全体にとっても大切なこと」と主張する。
「型破りな選手を育てるなら、型にはまったマネジメントは合わない」
当時の監督は、仰木彬氏だった。期待のルーキーで注目を集めていた野茂は、その日のオープン戦で打ち込まれたのだが、その時監督は次のようなコメントを残したという。
「あいつ、昨晩寿司を死ぬほど食わせたのに・・・・・・」そもそも試合前にそんなに食べたら、どうなるのか。別に寿司でピッチングが変わるわけではないだろうが、このボヤキは相当におもしろい。
それ以上に印象的だったのは、仰木監督は本当に野茂に期待していると同時に、無条件で信頼しているように思えたことである。
あとで考えると、これは信頼しているかどうかというよりも、彼なりのマネジメントのスタイルなのだと感じた。これを一言で言うなら「自信を持って甘やかす」ということなのだ、と思ったのである。野茂のような型破りな選手を育てるなら、型にはまったマネジメントは合わないはずである。
もう一人、仰木監督に目をかけられ、一気にスターダムにのし上がった選手として有名なのはイチローである。彼が仰木監督のことをいかに慕っていたかについては実に多くのエピソードがあり、広く知られているところだ。
野茂とイチローには共通点がある。・・・二人とも、フォームは変則的であり、どちらかと言えば"奇才"という趣がある。そして、仰木監督の元で、その才能を開花させた。
そして彼らの行動パターンを私なりに勝手に分析するとネコ型に見える。直接知っているわけでもないのに、はなはだ失礼だとは思うが、もし会社に勤めていれば立派なネコ型社員であったと思う。そして、仰木監督のような上司がいれば、かなりの成果を出したと思うのだ。
(山本直人著『ネコ型社員の時代 自己実現幻想を超えて』新潮新書、143~145頁より)
(会社ウォッチ編集部のひとこと)
「ネコ型社員」とは、「滅私奉公より、自分を大切にする」「アクセクするのは嫌だが、やるときはやる」「自分のできることは徹底的に腕を磨く」「隙あらば遊ぶつもりで暮らしている」「大目標よりも毎日の幸せを大切にする」といった特徴を持った社員のこと。「自信を持って甘やかす」とは、ネコ型社員を活かすコツの1つ。「仕事を楽しめ、と言われても困る」と言い、何を考えているのか分からない部下たちに悩む管理職は、「こいつらネコ型かも?」と観察して、打つ手を変えてみてもいいかもしれない。