連休の間、話題の「ウェブはバカと暇人のもの」(光文社新書)を読みました。タイトルは売れ筋の新書らしく挑発的ですが、内容は今まで断片的にしか取り上げられなかった「インターネットの実態と限界」について語ったもので、自分の体験からも共感できることが多く、読み応えがありました。
吉本興業の芸人さんと「動画」のコント講座を試みる
著者の主張の根底にあるのは、「ウェブは非常に便利なものではあるが、あくまでも道具に過ぎず、現実の世界や人々の行動を抜本的に変えるものではない」という考えです。「ネット生保」という業態でウェブマーケティングに施行錯誤してきた身としては、以下の3つのポイントが強く印象に残りました。
1.ネット利用者の多くは、テレビと同様、息抜きのつもりで見ているのだから、気取ったコンテンツではなくB級ネタでないとウケない。本気でマスに向けたウェブマーケティングをやりたいなら、ブランディングの観点からはかなりの割り切りが必要
2.匿名性と相互リンクの容易さ、「一度書いたものは消せない」というネットの特性によって、視聴者の苦情(それは生身の人間の汚らしい部分でもある)は何十倍にも増幅させられて伝播し、ときには炎上もする。しかし、企業はそれを過度に恐れるべきではなく、毅然とした対応を取るべき
3.マスメディアとしてのテレビの影響力は依然として圧倒的に大きい(同様の力があるのはYahoo!トピックスくらい)。ネットの世界で話題になっていても、実社会では知られていないことがほとんど。広い伝播力を考えるなら、テレビを中心としてネットをどう活用するかを考えるべき
1の「マスに向けたウェブマーケティング」については、当社でも2009年の春に、吉本興業の芸人さんとコラボで「動画で見る特別コント講座 生命保険」を作ってみたところ、まずまずの成果を上げることができました。現在掲載は終了していますが、社員ブログには、なかやまきんに君と鉄拳さん、もう中学生さんとの打ち合わせの様子が残っています。鉄拳さんには、数日間で「こんな生命保険は嫌だ」のネタ[PDF]を40本近く作ってもらい、さすがプロだなと感心しました。
匿名の誹謗中傷に対する「スルー力」は身についた
2の「ネットのネガティブな部分」については、当社も開業当初には2ちゃんねるなどの掲示板で、心ない誹謗中傷を受けたことがありました。当時はこのような経験に慣れていなかったので、社員も動揺しました。しかしいまでは、本書で言う「スルー力」をすっかり身につけることができ、落ち着いた対応ができています。
3の「テレビの力とネット」については、まさにいま私たちが肌をもって感じていることです。ライフネット生命は開業以来700件近くメディアで取り上げられてきました。しかし、いずれもボディーブローのようにジワジワと効きはしているものの、本当に大きなインパクトを持ったものは数えるほどです。
開業時のテレビ出演以降は、昨年末に「保険の原価開示」がYahoo! トピックスで取り上げられたこと、09年3月に「週刊ダイヤモンド」で「プロが選ぶ自分が入りたい保険1位」に選ばれたこと、そして09年6月にテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」の特集「生命保険 大変革時代」で取り上げられたことです。いずれも、緩やかな成長カーブが急に高くなりました。
また、本書で指摘する「人間の行動はネット後も大きくは変わらない」という点も実感しています。いくら生保の営業職員を省略したとしても、彼らが果たしていた「機能」は省略することができないのです。
本書はタイトルが刺激的であるために、手に取られていない方々もいるとは思いますが、現在のマーケティングにおけるインターネットの可能性と限界を理解するためには、参考になる本ではないかと思います。
岩瀬 大輔