2009年7月中旬、マイクロソフトから驚きの発表があった。長年、同社の高価な主力オフィスソフトとして活躍する「Microsoft Office」が無料化されるというのだ。しかもブラウザーで操作するウェブ版となり、来年前半にも登場する予定だという。
「必須ソフト」の地位から陥落しつつある「MSオフィス」
マイクロソフトも昨今は「クラウド・コンピューティング」戦略を推進していると考えられているが、その象徴的な動きとしてマスコミなどでも大きく取り上げられている。
ただし、「オフィスが無償提供へ」などといった見出しの記事の中身を読むと、「オフィス」が完全に無料化に移行するという話ではない。これまでと同じ製品版の販売も継続するのだという。製品版の次期バージョンは「オフィス2010」となり、ウェブ版のほうは「オフィス・ウェブ・アプリ」などの名称で提供されるものと見られる。
製品版と無料ウェブ版の「二本立て」という戦略はやや中途半端にも映るが、それにしても隔世の感を禁じ得ない。かつて、MSオフィスは多数のユーザーからWindowsパソコンに欠かせない存在だと見なされていた。だからこそ多くのパソコンにバンドルされ、もし入ってなければ、後から数万円を支払ってまで購入したものだ。
だがしかし、近年はパソコン上の絶対的な地位を失い、「オプション」的な立場になりつつある印象だ。「スタースイート」など、低価格や無料のMSオフィス互換オフィスソフトがユーザー間に浸透しはじめている。
これらのソフトは「Excel」などMSオフィスのファイル形式を読むことができ、また保存できる。細かな機能や使い勝手ではMSオフィスに及ばないものの、MSオフィスに慣れた一般的なユーザーがそう違和感なく使用できるレベルにはある。
どの程度使えるのか?「無料版オフィス」
低価格のネットブックをはじめ、ハード側でも、比較的高価と思われるMSオフィスではなく、こうした互換ソフトを採用するケースが増えてきた。マイクロソフトはオフィスの公式サイトで「ネットブックでも Microsoft Office 2007 を使おう!」と呼びかけているが、ウラを返せばネットブックでオフィスを使ってない人が多いことの現れであろう。
一方、「オフィス・ウェブ・アプリ」にとって直接のライバルとなるのは、グーグルが無料で提供する「Googleドキュメント」など、ウェブ版のオフィスソフト。現状のシェアはさほどではないが、近年の「クラウド・コンピューティング」の流れからして、将来的な脅威ではある。これら将来への不安が、マイクロソフトを無料化へと突き動かしている一因と考えられている。
なんにしろユーザー側から見れば、溜飲を下げ、歓迎すべき出来事だ。気になるのは「オフィス・ウェブ」が実際にどの程度使えるのか、製品版との差はいかほどか、といったことだろう。いざフタを開けてみたら、機能大幅限定の試用版のようなものだったりしては、シャレにならない。
この点、まだ情報は少なく、不安は拭えないが、そもそもオフィス製品の基本的な機能、文章を書いたり、計算したり、といったことは何年も前に完成しており、ウェブ上でも提供可能なもののである。どの機能を付加価値と位置づけて、無料版と有料版のバランスを取るのか。いったいマイクロソフトは無料でどこまでやってくれるのか――。来年前半のリリースを楽しみに待ちたい。
虎古田