不況でモノが売れない。ノルマは達成できず、ボーナスはカット。会社への不満がピークに達したとき、上司の承認なしに会社の口座から現金を引き出せる方法を知ってしまったら・・・? ある調査では、上場企業の2割で「資産横領」や「不正財務報告」などの不正行為が発生していることが分かった。発生の原因には「成果主義」があると分析する企業もある。
従業員不正で「5千万円以上」の損失を出した会社は16%
有限責任監査法人トーマツとデロイトトーマツFASは2009年7月1日、「企業の不正リスクの実態調査」の結果を公表した。調査は2009年1月に全上場企業3870社の上級財務担当責任者などにアンケートを送付。512社から過去3年間における不正発生の実態や防止対応などについて回答を得た。
これによると、回答企業の2割(21%)で不正が発生。その内訳は「資産横領」が最も多く69%で、2位の「不正財務報告」(22%)を大きく上回った。損失規模は1千万円未満が約7割(68%)を占めるが、5千万円以上の不正も16%あった。
部門別では、販売・サービス部門(59%)で頻発しており、次いで関係会社における不正(14%)が続く。業種別では、小売・卸売(39%)、建設・不動産(28%)、電気・ガス等(25%)、サービス業(22%)で発生割合が比較的高かった。不正の発覚ルートは「内部監査」(30%)、「内部通報」(19%)、「内部統制」(16%)が上位となっている。
不正行為を引き起こす「プレッシャー」「機会」「正当化」
不正に影響した企業風土に挙げられたのは、会社・個人業績へのプレッシャーにつながる「成果主義」(23%)や「売上高成長率重視の経営方針」(20%)。「非正社員割合の高さ」や「職員離職率の高さ」なども挙げられている。
日本公認不正検査士協会の甘粕潔氏は、厳しい経済状況の中で高まる様々なプレッシャーや処遇への不満が、従業員の不正を誘発することを会社は認識すべきと指摘する。
「給与カットで家計が苦しくなれば『横領』の、不況の影響で収益目標の達成が困難になれば『水増し計上』の発生リスクが高まります。生活苦などにより《プレッシャー》を抱え込み、人知れず不正行為を遂行できる《機会》を認識すると、普段は誠実な人でも、不正行為を《正当化》する弱さが露呈しやすくなります。これら3つの不正リスク要因は人間の内面で生じるため、不正を防止するためには従業員のメンタル面へのケアが不可欠です」
プレッシャーや不満の感じ方、倫理観の強さには個人差があるところが、対応を難しくさせる。上司は、部下の性格や生活ぶりの把握に努め、危険信号を察知できる感度を高めておく必要がある。
甘粕氏によると、米国の公認不正検査士(CFE)を対象した調査でも、「景気低迷期の不正は景気安定期に比べて増加するか」という問いに対し、80.5%が「増加する」と回答。「今後1年間で増加すると予想される不正の種類」としては「従業員による横領」(70.0%)がトップとなっているという。