俳優やDJとしてスポットライトを浴びる別所哲也氏が、手弁当で育ててきた「ショートショートフィルムフェスティバル」。アカデミー賞公認のビッグイベントにまで成長した映画祭には、裏方としてプロジェクトを率いてきた別所氏の苦労があったようだ。
「他者の満足」の中に「自分の充実感」を生み出す
「私は映画祭にスタッフとして参加して、もっと映画が見られると思ったし、映画監督たちともっと交流ができると思っていました」と言って泣いた人が、過去何人かいました。
僕は思わず叱りつけました。ファッション業界に入って、自分が一番先頭に立って拍手して、写真を撮れると思ったら、それは大間違い。憧れのブランド会社に入ったからといって、そこの洋服やジュエリーを身につけ、楽しむことができると勘違いしてはいけない。スタッフはいつも舞台裏にいて、ずっと駆け回って、ステージを見ている暇なんてあるわけない。・・・
僕たちは、お客様に「与える側」にいます。自分たちが一年かけてつくり上げたイベントを、お客様や来日してくれた監督たちに楽しんでもらう。そのこと自体を、自己実現、やりがいと感じられないのであれば、映画祭のスタッフでいることはお互いに不幸です。
釣りが趣味で大好きな人は、絶対漁師にならないほうがいいと言います。漁師は、毎日、一定の漁獲高を維持しなければならない厳しさに向き合うと同時に、自分のとった魚に誇りをもち、その魚を美味しく食べてくれるお客様の喜びを自分の喜びとしているはずです。
・・・自分のために、人のために働く。他者の満足の中に、自分の充実感を生み出す。常に、相手あっての自分なのです。職業を選ぶときには、この「自分のやりがい」と「相手の喜び」の二つを同時に満足させるものを選ぶことが、最も有意義なことではないでしょうか。
(別所哲也著『夢をカタチにする仕事力』光文社新書、176~177頁より)
(会社ウォッチ編集部のひとこと)
本の副題に「映画祭で学んだプロジェクトマネジメント」とある。映画祭の企画・実行を通じて、組織で仕事をすることについてさまざまな経験を積み、知見を深めていく過程がよく分かる。本文で引用されたアフリカの諺「早く動きたいのなら自分一人で行きなさい。ただ、より遠くへ行きたいのならみんなで行きなさい」という言葉が印象に残る。