「ブラック企業」と呼ばれる本当の理由は「希望の無さ」だ

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   最近、「ブラック企業」なるものがあちこちで話題となっているが、そういえば友人に一人、ブラック企業の人事総務経験者がいる。彼の話はとても興味深いものなので、いくつか紹介したい。

   彼のいた会社は、住宅リフォーム販売が主な仕事で、一応全国展開している。主力となる営業マンは、郊外の一戸建てを中心に訪問してまわり、高齢者を主なターゲットに高額なリフォームを売りつけて歩く。当然、そんな仕事が長続きするはずもなく、50人採用しても1年でほぼ全員やめる世界らしい。彼の仕事は、欠員を補充することだった。

   毎月毎月、求人雑誌に広告を出す。求人には爽やかでクリーンなオフィス写真もセットになっているが、もちろんモデルさんとスタジオを使ったものだ(なんでも求人誌にも格があるらしく、無料でファミレスなどに置いてあるやつはなぜかその手の求人が多いらしい)。

   ちなみに、彼は「関西勤務、初任給25万円」という条件で入社したが、研修終了後の配属先は埼玉、給料は2ヶ月目でいきなり5万円下がったらしい。

「最初は関西にいたし、初任給は25万払っただろう、イヤなら辞めろ」

というのが、会社のロジックだったそうだ。

ブラック企業を「働きやすい職場」の反面教師に

   だが、最近の新人は本当に「じゃオレ辞めます」といって辞めてしまうので、会社としても徐々に待遇を改善しているそうだ。そう考えると、若い労働力が豊富だった就職氷河期だからこそ成り立った手法かもしれない。

   新成人の数が既にピーク時より3割以上減り、20代の転職市場が確立した今となっては、こういった悪質企業は徐々に淘汰されていくのだろう。悪徳企業の淘汰のためにも、若者は変に我慢しないでどんどん権利を主張するといい。

   ところで「ブラック企業」の定義とはなんだろうか。給料が安い、労基法を守らないというだけなら、設立直後のベンチャーや中小零細企業の多くはブラックとなってしまう。下請けに苛烈なトヨタなどは、ブラックの親玉みたいなものだ。

   彼の話を聞いていて一番感じたこと。それは「希望の無さ」だ。ネジ1本作るにせよ、その先には何らかの夢なりビジョンなりがあるはずだが、悪質リフォーム販売には何年やっても何の将来性も感じられない。というか何年もやりたくないし、のれん分けしてやるよと言われてもお断りだ。

   つまるところ、待遇がきついことに加え、何の希望も将来性も持てない職場、それが「本当のブラック企業」なのだろう。ちなみに彼は今、実家近くの運送会社で真面目に働いている。給料はそれほど変わらないというが、今は様々な将来のビジョンが描けるそうだ。ブラック企業を反面教師としてみれば、働きやすさのヒントが見つかるかもしれない。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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