オーマイニュースの大きな特徴は、記事のコメント欄が燃えあがる「炎上」が頻繁に起きたことだ。最初に火をつけたのは、皮肉にも鳥越俊太郎・初代編集長だった。創刊前に「2ちゃんねるはゴミだめ」と発言して、創刊準備ブログが炎上した。創刊後も市民記者の記事に対してコメントが殺到し、収拾がつかなくなることがよく生じた。そのとき、舞台裏はどうなっていたのか?
>>オーマイニュースはなぜ挫折したか(上)
>>オーマイニュースはなぜ挫折したか(中)
「炎上記事」を掲載したのは理由があった
渋井哲也・元編集部デスク
司会(藤倉善郎:元編集部記者) 炎上事件で有名なのは「ヤフーBB無線LAN事件」。マクドナルドに行くとネットに無料接続できるというヤフーBBのサービスを知った市民記者が、実際にマクドナルドに行って、ハンバーガーもドリンクも頼まずにパソコンを開いてネットをやろうとしたら、店員に「何か注文してもらわないと困る」と言われた。
すると、その市民記者は「ここで飲食しなければだめだとヤフーBBから説明されなかった」と怒って、ヤフーBBやマクドナルドに電話でコメントを取って記事にした。常識的に考えれば、そういう場合に飲食するのは大前提だと思うが、なぜこんな記事を編集部は載せたのか? 担当したのは渋井さんだったというが。
渋井哲也(元編集部デスク) 僕の中ではオーマイニュースは道徳的なメディアではないはずなので、「自分の身近な体験や疑問を感じたことを取材していればOK」と思っていた。ヤフーBBの記事も僕個人の結論とは違ったが、一応体験しているし、一応取材はしているので、結論は読者にまかせるべきだと思った。炎上したとしても、それは記事を書いた側の問題。基本的に、オーマイニュースはプラットフォームになるべき存在だと考えた。
司会 事実関係は問題ないと。意見の内容については、編集部のほうで捨てたり拾ったりということを極力しないほうがいいと?
渋井 僕は極力しないほうがいいと思っていた。僕の主観的な判断でやっていたら、ほとんどのニュースは回らなくなってしまう(会場笑)。他人を明らかに傷つけるようなものや明らかな名誉毀損でなければ載せるべきだと思っていたので、ヤフーBBの記事も僕の中のテイストにはあっていた。
司会 では、同じくデスクをしていた村上さんからみて、オーマイニュースの炎上で印象深いのは?
村上和巳(元編集部デスク) 光市母子殺害事件に関連して、市民記者が「実は私も同じようなことをやろうとして失敗した」という記事を書いてきたことがある。その市民記者は少年の気持ちも分かると書いていた。最終的な掲載判断をしたのは渋井さんだったが、私も自宅からも記事をチェックしていて、もし自分のデスク担当のときだったら載せようと思っていた。
いろいろ議論はあるだろうが、市民メディアとして、誰がなにを投稿しようと自由。それに、犯罪抑止のために我々が知らなくてはいけないのは「犯罪者の心理」ではないかと思った。犯罪をしようとした人の心理はなかなかうかがいしれないから、こういう情報は目をつぶってはいけないのではないか。