ケータイのおかげで人間関係がややこしくなる
と、そこでまたもやケータイが鳴り、すぐに切れました。熱海の直前あたりでは、トンネルが連続するので、電波が届きにくくなるのです。
「なんだよ、うっるせぇなぁ!」
真ん中の人が充血した目をしながら絡みました。
「いや、あなたが邪魔になってこっちに出れないんでしょう?」
Aさんは思い切って諭すように言いました。
「おまえは関係ないだろう、黙ってろ、うるせぇぞ!」
「とにかく通してあげなさいよ」
「なんだよ、おまえは!」
Aさんと真ん中の人とが、言い争うようになってしまいました。
「すみません、申し訳ない。電話に出てきますんで、ちょっと通してもらえますか」
真ん中の人はぶつぶつ言っていましたが、ビール缶を手に取ってテーブルを上げ、窓際の人を通しました……。
新横浜で真ん中の人が降り、窓際の人がAさんに話しかけてきました。
「私のせいで不愉快な目にあわせてしまって、すみませんでしたね」
「いや、あの人ももうちょっと空気を読むというか、慮ってくれれば良いんですけどねえ」
「空気を読むというより、他人のおかれた状況や気持ちを推し量る、察するということが、どうにもできない人が増えていますよね。あの人もそういう感じでしたけど、電話の主も、繋がらなかったら忙しいのか、何か事情があるのかと察して、留守電に入れといてくれればいいと思うんですけどね」
「まあ、出なけりゃ出ないで、何か事故にでも遭ったのかなんて思われちゃうご時世ですもんねえ(笑)」
「ケータイって、人間関係を繋げる便利な道具ですけど、同時に人間関係をややこしくする面倒なモノでもありますよね(笑)」
Aさんも、本当に便利だけど、本当に面倒くさい存在だな、と感じました。
「申し遅れましたが」と名刺を交換したら、同じ親会社を持つグループどうしで、会社の場所も程近いところにありました。いまでは、良い飲み友達だそうです。
井上トシユキ