『就活のバカヤロー』(光文社新書)で学生の就職活動をめぐるおかしな実態を赤裸々に暴き出したジャーナリストの石渡嶺司さんが、その対策編ともいえる本を出した。光文社から2009年3月に刊行された『大学進学・就活 進路図鑑2010』。図鑑の名にふさわしく、全763ページにも及ぶ情報量の多さが売りだ。同書にはどんな思いが込められているのか。石渡さんに聞いてみた。
「いろんな方向性があることを知ってもらいたい」
著者の石渡嶺司さん。ブログも面白い
――『進路図鑑2010』、興味深く目を通させていただきました。反響はどうですか?
石渡 そうですね。高校などから講演依頼をいただく機会が増えました。大学関係者から「うちの大学が載っていないのはどういう了見か」という問い合わせを受けたこともあります。大学さんはやはり、ここに載っているかどうかを気にされるみたいですね。
――この本にはどんなメッセージが込められているのでしょう。
石渡 今、国内に大学が775個あります。また、職業というのも当然無数にある。それを高校生、あるいは大学生の段階で「コレ」と決めるのはなかなか難しいと思います。私はこの本で「いろんな職業があるよ」ということを書きました。たとえばテレビ局のアナウンサーを志望していたとして、試験に落ちて人生が終わりかといえば、決してそんなことはない。テレビ局の営業・編成だって仕事です。周りにもいろんな方向性があるということはぜひ知ってもらいたいなと思い、本を書きました。
――『進路図鑑』には、マスコミや公務員、ファッション・美容など全17業界について、業界別の「年収ランキング」や関係者による「業界裏話」などさまざま情報が掲載されていて、その分量に圧倒されるのですが、特にこだわった点はなんですか?
石渡 「業界裏話」ですね。ここはかなり苦労しましたけど、対象者を全員探し出して、手間暇を惜しまないで取材しました。
――冒頭の大学生へのメッセージで「就活には答えなんてない」ということが強調されています。これは『就活のバカヤロー』にも書いてあったことで、その意味では前著の方針を引き継いでいるように感じたのですが。
石渡 はい。『就活のバカヤロー』はあくまで「就活現場ルポ」として大学生・企業・大学・就職情報会社の4者の視点をまとめたもので、こうすれば面接で合格するとか、就活の現状が劇的に変わるとか、そういう答えはまったく用意してないんですね。「進路図鑑2010」の場合も「答えがない」というのは同じですけど、ヒントとして(進路選びの参考になる)本や情報などをできるだけ多く盛り込むようにしました。
――前回と異なり、今回は学生視点がメインですね。就活に役立つ書籍や雑誌が紹介されているのは、「当人達に情報収集能力を磨いてほしい」という意味もあるのかなと思ったんですが?
「ネットにすべての情報が載っているわけではない」
石渡 そうですね。情報選びについては「書籍・雑誌・新聞よりはネットで十分」と考えている方が、学生の主流を占めていると思います。もちろん全否定はしませんが、ネットに全部情報が載っているかといえば、決してそんなことはない。書籍をはじめとする活字メディアは、最先端ではないにせよ「時代遅れで不必要なメディア」にまで落ちているわけではない、ということをもっと訴えかけたいなと思いました。
――『就活のバカヤロー』を出されてから、学生の進路相談を受ける機会も増えたと思うんですが、傾向というか、こういう質問が多いというのはありますか。
石渡 講演時の質疑応答や学生からのメールで、「本に書いてある内容はよくわかった。でも、こちらとしては答えが欲しいんだ」と言われることは多いです。
そういうときは、『就活のバカヤロー』は人間ドッグみたいなものなんだと答えています。つまり、学生が人間ドッグに来た患者だったとすると、当然人間ドッグだからあれこれ調べますよね。その結果、どうも悪い部分があるという場合、人間ドッグはそれをレポートにまとめて患者に渡しても、治療はしません。それ以上のことを求められても困りますし、今の時点で治療する技術がないのにあるかのように言うのはおかしいでしょ、と。これでだいたい半分は納得してくれます。
で、「治療する医者って誰?」という話になるんですけど、答えとしてはそれも学生自身なんです。やっぱり最終的には、本人がどうするか決めるべきだし、適性や希望によって就活は変わっていくものですから。こう話して、まぁなんとか納得してもらっている感じです。
――石渡さんからすれば、学生が安易に「答え」を求めてしまうと感じることも多いのではないですか?
石渡 うーん、ただ時代も時代なので、焦りを感じてしまうというのもわからないではないです。ですから、そこまで学生がバカだとか、資質がないとまでは思いません。それはそういった状況を作り出している大人や、年齢の高い人間の責任でもありますから。
インタビュー内でも強調されていた業界裏話や書籍案内は、学生のみならず、同業種・異業種で働く社会人にとっても興味深い内容に仕上がっている。書店などで見かけたら、ぜひ手にとって、その内容の濃さに圧倒されていただきたい。