不況でたくさんの会社が潰れているが、なかでもひどいのが出版社だ。雑誌や本が売れないという構造的な販売不振に、景気低迷による広告収入の減少が追い討ちをかける。会社が潰れるところまでいかなくても、老舗の雑誌が次々と廃刊に追い込まれている。
このままでは週刊誌が危ない。そう憂える週刊誌の編集長たちが一同に会して、週刊誌のこれからを考えるシンポジウムを開催した。何人かの編集長からは「ネットのおかげで雑誌が売れない」との泣き言も出たが、シンポジウムの内容を速く、詳しく報じたのは、雑誌の仲間であるはずの新聞ではなく、ネットだった。
>>Twitterでシンポジウム「生中継」 津田大介さんに聞く
シンポジウムは立ち見客が出る大盛況
Twitterの津田大介さんのページに、シンポジウムの発言が次々掲載された
「闘論!週刊誌がこのままなくなってしまっていいのか」と題されたシンポジウムは2009年5月15日、東京・四ツ谷の上智大学で開かれた。元週刊現代編集長の元木昌彦さんが呼びかけ人となって、週刊文春や週刊朝日、週刊現代などメジャーな週刊誌の編集長が集まった。
参加したのはこのほか、週刊ポスト、週刊SPA!、フラッシュ、週刊大衆、週刊アサヒ芸能、サンデー毎日、週刊金曜日、週刊プレーボーイの現役編集長または編集長経験者という豪華な顔ぶれ。ジャーナリストの田原総一朗さんと佐野眞一さん、上智大学の田島泰彦教授も出席したが、大誤報事件を起こしたばかりの週刊新潮は登壇しなかった。
会場となった教室には、300人近くの聴衆が詰めかけた。立ち見客が多数出て、遅れてきた人は中に入れないほどの盛況だった。上智大学の学生を始め、20代、30代の人も多かった。
「こんなにたくさんの人が来るとは思っていなかったので、びっくりしました。週刊誌の火が消えることを望んでいない人が多いということでしょうね。今後も同様の企画を予定していますが、手応えを感じることができました。でも、だったら、なぜ雑誌が売れないんでしょうか?」
と、シンポジウム事務局を担当したマガジンX編集部の有賀香織さんも驚きを隠さない。
シンポジウムは3時間以上かけて、それぞれの編集長が順番に発言していく形式で進められた。その模様が、いまユーザーが急増しているミニブログ「Twitter」上で実況中継されたのだ。レポートしたのは、インターネット関係の著書が多数あるジャーナリスト・津田大介さんだ。
「今の雑誌のビジネスモデルは終わってる」
Twitterの津田さんのページには、各編集長や田原さんたちの発言が次々とアップされた。Twitterは1回のエントリーにつき、最大140字までしか投稿できない。そのため、1人の発言がいくつものパーツに分けられて、Twitter上に流されていった。
たとえば、津田さんが「一番説得力ある意見を言っていた」という週刊金曜日編集長の発言はこんな感じで伝えられた。
週刊金曜日「新聞が最近何で売れないか。こんなの当たり前。もともと消費者はそもそも新聞を隅から隅までしか読んでない。新聞の読んでる時間なんて平均すればせいぜい5分とか10分。要するに昔の新聞は固定費だった。新聞は今読まれないのではなく、昔から読まれてなかっただけの話」
週刊金曜日「雑誌は何で買われるか。それは暇つぶし。佐野さんの本は俺も持っているが、佐野さんが連載した雑誌は捨てた。今の暇つぶしは何か。ネットかケータイ。暇つぶしのものとしてやっている以上、雑誌が売れるわけがない。今の雑誌のビジネスモデルは終わってる」
週刊金曜日「楽しいことをドライブしていければ、まだ雑誌ジャーナリズムには可能性もあるし、ネットだってジャーナリズムとの親和性はそもそも高い。紙は減るかもしれないけど、ネットをうまく活用すればいい」
「本当は広告効果なんて大してない」
津田さんのレポートは、Twitterから別のウェブページに転載され、さらに多くの読者の目に触れるようになった
そのほかにも、週刊SPA!や週刊朝日の編集長などから面白い発言がポンポン飛び出し、それがほぼリアルタイムで中継された。
SPA!「広告に効果があるのかということが問われてる。本当は広告効果なんて大してない。それを代理店と我々がクライアントを騙してきた」
SPA!「うちのデジタル部署の動きを見てこれはないな、と思ったのはSPA!のデジタル記事を扶桑社のウェブサイトで売っていたこと。だけど、扶桑社そのもののファンなんてのはいない(会場笑)。そもそも売る場所を間違えている」
週刊朝日「さっき田原さんから度胸がなくなったと怒られたが正直いって度胸ないです。萎縮してます。何人か指摘しているが2つの大きな脅威にさらされている。さまざまな規制と訴訟。もう1つは本を買ってもらえないので制作費がなくなっている」
週刊朝日「今日、若い人がいっぱい来てるけど、週刊誌がつまらないから買わないんだよね?(会場笑)。でも、信頼性のある情報は金を出して買って欲しい」
編集長たちの多くは、名誉毀損訴訟の賠償金の高額化と部数減少で週刊誌が萎縮していると指摘したが、なかには、ネットのせいで週刊誌の売上が落ちているという発言もあった。
フラッシュ「ネットの驚異ということも言われているが、スクープをやっても、発売前日にそれが2ちゃんねるに掲載されてしまう。そのへんも週刊誌の元気をなくしている。というか実売を確実に奪っている」
「ネットを使ったジャーナリズムの新しい可能性を模索したい」
このようなシンポジウムのなりゆきを、多くのネットユーザーが“会場の外側”で見守った。シンポジウム後には、各発言が別のウェブページに議事録のような形式で転載されて、読みやすいようにまとめられた。そのページには400件以上のはてなブックマークがつき、「おもしろかった」「濃い話がたくさん」「津田さん乙」といった賞賛のコメントがたくさん寄せられた。
シンポジウムをTwitterで中継した理由について、津田さんは
「1つ目は米国のように国会議員によるライブな情報提供が日本でも始まることに公益性があると思うから。2つ目は紙媒体がヤバい状況でネットを使った物書き・ジャーナリズムの新しい可能性を模索したい。3つ目は実況してると集中するのでイベント中に眠くならない」
と、やはりTwitter上でコメントしている。
ネット上ではこのように、シンポジウムを詳細にレポートする動きがあった。しかし、週刊誌と同じ“紙メディア”である新聞の反応は鈍く、シンポジウム翌日や翌々日の全国紙に目立った記事が掲載されることはなかった。共同通信が簡単な記事を配信し、四国新聞などの地方紙が取り上げた程度だ。はてなブックマークには、あるユーザー(schizo-08_08さん)の次のようなコメントがつけられていた。
「雑誌という旧メディアのシンポジウムの内容が、twitterというネットの最先端サービスで紹介されるというのは、何という皮肉か」