正規、非正規を問わない人員削減のまっただ中で、会社の方針を現場で実現していくのは人事の仕事だ。人として忍びなくても、そこは会社員。クビ切りの命令に従わなければ、自分のクビだけでなく、より多くの社員の雇用が危なくなる。
あるメーカーの担当者は「仲間たちに解雇を通告するのは、本当に気が重い」と悩みを打ち明ける。
「怒号の嵐」を収める役目を担わされるなんて
――大手メーカー本社の人事総務部に勤めています。景気悪化のあおりを受けて、わが社でも従業員500人の工場を閉鎖することになりました。社長が身売り先を探して国内外を奔走しましたが、この景気ではどこの会社とも話がつかなかったのだそうです。かといって、停止した製造ラインをいつまでも抱えておくわけにもいきません。
事務職や管理職は、本社や支社に異動して別の仕事をしてもらいますが、正規・非正規合わせて約400人の製造ラインの従業員は、会社都合で解雇せざるを得ません。同じような状況を経験した他社の担当者の話を聞くと、やはり相当な苦労があるようです。
長年働いてきたベテラン社員たちから「誰のおかげでここまでやってこられたと思ってるんだ!」と吊るし上げられたり、若い期間工から「子どもも小さいし、家のローンも残っている。この先どうしたら……」と泣きつかれたりすると聞きました。
なかには、面談中に「ちょっと電卓を貸してください」と言われたので渡したら、その後「電卓を投げつけられた」という作り話に使われて、呆れるとともに怒りに震えたというケースもあったそうです。また、嫌がらせで会社の廊下に排泄物を残していく社員がいて、人事担当者がその処理をさせられたという話もあります。今から本当に気が重いです。
さらには、工場の閉鎖と同時に担当者自身も解雇されることが決まっている「最悪のパターン」もあると聞きました。自分もクビと分かっているのに、集会で全員に解雇を通告し、怒号の嵐を収める役目を担わされるなんて、想像しただけでゾッとします。どんな槍玉に挙げられるかと思うと、私が先に会社を辞めたほうがマシと思うくらいです――