「指名手配中のチュー太、身柄確保」
ある日、こんな題名のメールが飛んできた。
「チュー太(住所不定、ホウレン草種子食べつくし容疑で逃走中)が、今朝8時ごろ殺鼠剤を食べぐったりしているところをビニールハウスの見回りに来ていたスタッフYにて確保された」
報告してきたのは、セレンが栽培指導している山中湖村の農業施設のスタッフだ。ビニールハウス内で実験的に栽培していたホウレン草の種子が、何者かによって全部食べつくされてしまうという事件がおきた。その犯人、いや犯鼠が逮捕されたときのメールだ(笑)
愛情こめて育てたホウレン草がぐちゃぐちゃにされた
ネズミ対策のため、ビニールハウスの中の育苗トレーを高床式にして、さらにビニールで覆うようにした
鑑識の結果、今回犯行に及んだネズミはビニールハウスの外からトンネルのような穴を掘って中に入り込んできたものと推理された。
事件の第一発見者K氏は、「ホウレン草種子食べつくし」現場の様子を次のように説明する。
「いつものように朝の見回りで発見しました。愛情込めて育てていたホウレン草が全部ぐちゃぐちゃにほじくりまわされていて、何者かに食いちぎられていました。すごいショックで半日くらいは気持ちが沈んで何もする気が起きませんでしたよ」
たしかに農家にしてみれば、せっかく育てた作物を横取りされていい気はしない。しかも全滅であれば収入も無くなる。
実はこのネズミ、前科があって、今回が2回目の犯行だった。
対策として、K氏たちはビニールハウスの壁に沿って50センチほどの深さの溝を掘り、ブロックを埋め込んだ。ネズミが穴を掘っても中には入り込めないようにしたのだ。また、ビニールハウスのドアの開閉時に万が一紛れ込んでいたとしても犯行におよばないように、育苗トレーを高床式に改造した。
そしてもうひとつ、ネズミたちが食い散らかしたホウレン草の育苗トレーに殺鼠剤をわざとまぎ、「このトレーを食べると危ない」と記憶させるようにした。
殺鼠剤の効果は絶大。ほどなくして犯鼠であるチュー太の身柄が確保されることになった。その後、ビニールハウスの隣の納屋にチュー太の大家族が潜伏していることが判明し、全員共犯として検挙されたのだった……