フォローのチャンスは何回もあった
最初に鈴木さんが口にした感想は「いったんけなしてから、後でほめる」というものだったのだが、「食べにくい!」という言葉が強烈すぎたのか、宮本さんにはただの悪口としてしか聞こえなかったようだ。しかし鈴木さんは「ほめている」つもりなので、宮本さんがなぜ怒っているのかわからない。そのために、その後の会話も完全にすれ違いで、かえって火に油をそそぐ形になってしまった。
確かに、鈴木さんにしてみれば宮本さんの怒りは勘違いだといえるし、公の場で憤りをあらわにするのは大人げない行動ともいえる。だが私たちの仕事でも、このように本来意図しないところで「何気ない一言」が相手を傷つけてしまい、人間関係がこじれてしまうことはしばしば起こることだ。こんなときはどうすればいいのか。
「ネットで公開されていた動画も見ましたが、宮本さんはキレたというよりも『食べにくい!』という言葉に傷ついて、気持ちが向こうに行っちゃった感じですね。繊細な人、正直な人なんだと思います」
と指摘するのは、『「愛され社員」で行こう!』(日本実業出版社)や『1秒で彼を夢中にさせる本』(中経出版)など人間関係をテーマにした著書が多数ある作家の藤沢あゆみさんだ。
「こういうときは、『ごめんなさい』とちゃんと謝ったり、『でも、はまっちゃったんですよね』とプチフォローの言葉を入れたりすればまだ良かったと思うのですが、逆に『遠くに行っちゃった』と指摘したことで、宮本さんの逃げ場がなくなってしまいましたよね」
藤沢さんからみると、フォローを入れるチャンスは何回かあったという。
「宮本さんは『失礼なやつだな』とか、『悪気がないのは分かってるけど』という言葉で何度もSOSを出しているんですよね。そのタイミングでフォローの言葉を言えれば良かったんですが……DJの彼女からすれば『甘くみられちゃいけない』という気負いがあったのかもしれません」
最善なのは雲行きが怪しくなったらすぐにフォローの言葉を入れること。だが、相手が向こうに行ってしまったら、無理にこちらに引き戻そうとしないで、時間をおいたほうがよい場合もあるという。
「宮本さんの気持ちが遠くに行っちゃったときに、無理に会話をふらずに、リスナーに向けてアルバムのことを語るという方法もあったでしょう。その言葉がフォローになっていれば、宮本さんもクールダウンできたのではないでしょうか」
私たちも不用意な一言で相手を怒らせてしまうことはある。そんなときのケーススタディとして、今回の二人の「キャッチボールミス」は参考にできるのではないだろうか。