グーグル日本法人が入居する東京・渋谷の高層ビル、セルリアンタワー。そのすぐそばの小さなビルで、「グーグルのように世界中にインパクトを与えるネットサービスを展開したい」という大きな夢を育んでいるベンチャー企業がある。
10カ国以上から人材が集まった「多国籍ベンチャー」
セレゴ・ジャパンには世界各国から多彩な人材が集まっている
「セレゴ・ジャパン」という名前のその会社は、社長をはじめ、20数人いる社員の8割が外国人という日本では珍しい会社だ。驚くべきは出身国の多様さ。アメリカ、カナダ、オーストラリア、オランダ、ベルギー、イタリア、スウェーデン、アイスランド、フィリピン、韓国、台湾、イタリア、そして日本と10カ国以上に渡る。
「日本で優秀な人材を集めようとしたら、たまたまそうなった。ほとんどは母国語と英語と日本語を話すことができる。新しい世界を目指すビジョンとパッションをもった連中ばかりだよ」
と、創業者で会長のアンドリュー・スミス・ルイス(41)は、いたずらっ子のようなヒゲモジャラの顔をほころばせる。
世界各国から集まった"多国籍軍団"の彼らが日本から世界に向けて展開しようとしていること――それは、脳科学や認知心理学にもとづいて開発された独自の「記憶管理システム」をベースにした、新しい学習スタイルを世の中に広めることだ。そのコンセプトを具現化したのが、誰でもウェブ上で無料で利用できる学習サイト「smart.fm(スマート・エフエム)」である。
脳科学にもとづいた「記憶管理システム」をネットで提供
動物の写真を見ながら英語名を覚えるコンテンツ。smart.fmではこんな学習コンテンツをユーザー自身が作成できる
smart.fmと聞いてピンとこない人でも、「昔の名前はiKnow!です」と言えば分かるかもしれない。もともとは「iKnow!」と呼ばれていたこのサイトは、2007年10月に日本人向けの英語学習サイトとしてスタートした。1年半の間に何度も改良を重ねながら、40万人以上の会員を有するサイトへと成長。09年3月には、英語だけでなく、あらゆる分野の情報を脳にインプットするための総合学習サイトへと進化し、それとともにサイト名を「smart.fm」に変えた。
smart.fmには、TOEIC対策や旅行英語を始めとした英語コンテンツのほか、星座の種類や日本の歴代首相、道路標識など学習コンテンツが豊富に用意されていて、パソコンやケータイでいつでもどこでも記憶学習ができるようになっている。だが、最大のセールスポイントはコンテンツの質や量ではなく、脳科学や認知心理学の研究成果をもとに開発された「記憶の管理システム」にある。
「我々の勝負どころは、ブレイン・マネージメント(脳の管理)。『何を勉強したいのか決めたら、あとはおまかせください』というわけ。その人の学習スタイルや脳の動き方にあわせて、もっとも効率的に記憶できるように脳をオンラインで管理するんだ」
アンドリューとともにセレゴを2000年に創業した社長のエリック・ヤング(42)はそう事業のコンセプトを説明する。大手投資銀行出身の彼は、アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれ、アメリカとインドネシア、日本で育ったという国際的なバックボーンを持つ。
不思議な会社で働く「中の人」に1人ずつインタビュー
異なる国のスタッフたちが英語で会話しながら、開発を進めていく
「脳を管理する」というとSF映画に登場するような実験室を想像するかもしれないが、実際に管理するのはコンピューターのプログラムだ。ユーザーはインターネットでsmart.fmのサイトにアクセスし、学習したいコンテンツを選ぶだけでよい。
たとえば英単語を100個憶えるとすると、どの単語をどのくらい記憶しているかコンピューターが把握していて、ちょうどよいタイミングで復習をうながしてくれるのだ。一般的な人間の記憶プロセスとその個人の脳のクセにあわせて、最適の問題がクイズ形式で出題される。記憶力がいい人はいい人なりに、悪い人は悪い人なりにその人のペースで自然と学習を進めることができるという。
「脳科学と情報テクノロジーの力で、いままでの勉強の非効率なやり方を変えていきたい。smart.fmは世界に大きなインパクトを与えることができるプラットフォームだと信じて、20億円の資金を投資家から集め、組織を作ってきたんだよ」
エリックがそう自信をもって語るsmart.fmは、前述した世界各国から集まったインターネット技術者の手でつくられている。その組織は、日本の普通の会社とは違う独特のカルチャーをもつ不思議な空間でもある。
さまざまなバックグラウンドをもった異能のガイジンたちは、なぜ日本にやってきて、どんな思いで仕事に取り組んでいるのか。また、その中で働く"少数派"の日本人社員は何を考えているのか。次回から、毎回1人ずつインタビューして、その素顔を紹介していく。