社員に犠牲を強いる「グレーな慣例」を放置するのは危ない
そこでC子さんは「時間外手当が出ないのなら、残業は一切できません」と宣言して、定時ぴったりに席を立つことにしました。すると周囲の人たちからは「忙しい他の人たちの仕事を手伝うつもりはないのか」と言われ、上司からは「君は本当に協調性がないよね」と呆れられてしまいました。
ついに堪忍袋の緒が切れたC子さんは、この会社とは今後一切かかわりを持たないと決心し、翌日から無断欠勤したまま出社をやめてしまいました。C子さんの自宅には会社から電話が入りますが、無視を決め込みます。退職届を返送するように、制服を返すように、との依頼も無視しました。すべて会社が悪いのですから。
もちろん、会社側にも言い分があります。人事担当者は、
「管理職が指示または承認をした残業以外は認められないことを、入社前に本人に伝えてあります。他の社員に聞くと、彼女はネットでゲームをしていて帰りが遅くなる日もあったようです。引継ぎもせずに突然退職するなんて、本当に非常識な人でしたね」
と、困惑しています。
しかし会社側も、社員の善意に寄りかかる経営の見直しが必要かもしれません。残業に上司の指示や承認が必要なのはよいとして、実際に残業が発生している場合には、実態を調べずに時間外手当を支払わないのはトラブルの元です。また、休日出勤には、振替休日を与えるか、代休を与えた上で休日労働に対する割増賃金を支払う必要があります。
社員に犠牲を強いてばかりいる慣例を放置すれば、優秀な人材は流出し、退職時に後ろ足で砂をかけられることも増えます。それを「あいつはシュガー社員だったからな」で済ませていると、いずれ「あの会社、ブラックらしいぜ」と逆に噂を流されるリスクが高まると考えておくべきです。
田北百樹子