「うつ病」休職社員が「ハワイ旅行」に行っていた

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   「メンタルヘルス休職者がいる企業は6割強」という調査結果がある。なかでもIT業界は、慢性的な人員不足と長期間の激務、仕事のタコツボ化と人間関係の希薄さなどから、メンタル不調者が多い。あるIT企業の人事担当者は「うつ病の休職者の対応に追われてヘトヘトになってしまった」と嘆く。

「飲み会」や「パチンコ」も大丈夫

――わが社は従業員約1万人で、280人の休職者がいます。9割はメンタルヘルス系の病気で、人事担当者は、主治医との連絡や復職に向けた面談などに追われています。いったん復職した人も、来たり休んだりを繰り返したり、机に突っ伏して仕事にならない場合もあって、メンタルヘルス不全の復職者への対応には苦労しています。
   そんな中、先日会社帰りに通りかかったパチンコ屋で、うつ病で休職中の従業員を見かけました。声を掛けると「朝は調子が悪いが、夕方から気分がよくなるので、趣味のパチンコくらいはできる」とのこと。リハビリにはそれもいいか、と思って帰宅しました。
   しかし翌日、他の担当者や管理職に聞いてみると、うつ病で休職中の社員が「飲み会には必ず参加する」とか「家族でハワイ旅行に行っていた」とか、予想もしなかった例が出るわ出るわ!
   産業医は「回復している証拠」と言うのですが、いまひとつ納得できません。こちらは通常業務も重なり、残業が深夜に及んで疲れ果てているというのに…。正直言って馬鹿らしくなりました。果たして、これは本当に「うつ病」と言えるのでしょうか。
   更に悪いことに、休職者をカバーするために、各職場で残業が急増し、対応に追われる上司までがうつ病になるケースも出ています。「なぜ休んでいる奴の給料まで稼がなければならないんだ!」という意見も上がり始めました。現場の不満の高まりを感じながら、毎日ビクビクしながら出社している今日この頃です――

臨床心理士・尾崎健一の視点
「新型うつの特質を理解して協力を」

   会社でうつ病が発生した場合、患者がどのタイプなのか把握して対応する必要があります。最近増えているのは、私生活では元気だが、会社に向かうと調子が悪くなる「新型うつ」と呼ばれるタイプです。このような症状は従来とは異なる症状があり、これをうつ病の概念に入れるか否かは、医師の間でも議論の分かれるところです。精神科医の香山リカ氏のように、新型うつは「仕事を通じて自己実現を達成しよう」とするからこそ生まれる新しい病気、と解釈をする先生もいます。

   周囲は戸惑うかもしれませんが、このような病気の特質を理解し、医師の診断を尊重して復帰に向けて協力してあげることが必要です。なお、会社の机で突っ伏していたり、パチンコやハワイ旅行に行っていたりしている状況が、主治医に伝わっていない場合もあります。本人同席または本人の了解を得た上で「会社での様子」や「休職中の過ごし方」などの情報を共有すると、主治医の指導協力も得やすくなります。

社会保険労務士・野崎大輔の視点
「就業規則に休職ルールを入れておく」

   病気の苦しみは本人にしかわからないといいますが、特にメンタルヘルス系の病気は健康との明確な線引きが難しく、そのことを悪用する輩がいないとも限りません。先日も組織的な「うつ病詐欺」が摘発されましたが、経営的な観点でリスク管理をしておくことも必要です。

   万一に備え、就業規則に「休職」に関する取り決めを設けることが大切です。「遅刻や早退が続くようなら、休職を命じて治療に専念させること」「休職が一定期間続けば、自己都合の退職とすること」「同じ病気で断続的に休職・復職を繰り返した場合には、休職期間を通算すること」などのルールを設けておかないと、いつまでも休職を続ける例を増やしかねません。

   一方で、「ハワイに行けるなら会社にも来られるよね」と無理に復職させて症状が悪化すれば、会社の法的責任を問われることにもなりかねません。担当者さんの悩みには同情しますが、疲れで冷静さを失わないよう、ご自分の健康管理にも十分注意してください。


(本コラムについて)
臨床心理士の尾崎健一と、社会保険労務士の野崎大輔が、企業の人事部門の方々からよく受ける相談内容について、専門的見地を踏まえて回答を検討します。なお、毎回の相談事例は、特定の相談そのままの内容ではありませんので、ご了承ください。

尾崎 健一(おざき・けんいち)
臨床心理士、シニア産業カウンセラー。コンピュータ会社勤務後、早稲田大学大学院で臨床心理学を学ぶ。クリニックの心理相談室、外資系企業の人事部、EAP(従業員支援プログラム)会社勤務を経て2007年に独立。株式会社ライフワーク・ストレスアカデミーを設立し、メンタルヘルスの仕組みづくりや人事労務問題のコンサルティングを行っている。単著に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。

野崎 大輔(のざき・だいすけ)

特定社会保険労務士、Hunt&Company社会保険労務士事務所代表。フリーター、上場企業の人事部勤務などを経て、2008年8月独立。企業の人事部を対象に「自分の頭で考え、モチベーションを高め、行動する」自律型人材の育成を支援し、社員が自発的に行動する組織作りに注力している。一方で労使トラブルの解決も行っている。単著に『できコツ 凡人ができるヤツと思い込まれる50の行動戦略』(講談社)、共著に『黒い社労士と白い心理士が教える 問題社員50の対処術』がある。
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