「トレーナー」が異動の希望を上司に掛け合ってくれた
私は当時、このままでは心も体も折れてしまう予感もあり、他の部署へ異動したいと考えていた。しかし、とても上司に話せる状況ではない。意を決してトレーナーに打ち明けると、彼は何日か考えて「大塚君のキャリアを考えると、私も異動した方がいいと思うね」と言ってくれた。
そして、引きとめようとする上司や人事部に掛け合って、異動の段取りをつけてくれたのである。会社の都合を超えたところで、個人的な不満や希望に耳を傾け、それを実現してくれるトレーナーは、私の「人生」と「仕事」のバランスを取る貴重なサポーターとなった。
その後、私はMBA取得のため、米国に留学したいと考えるようになった。そして、資金を貯めるために会社を辞め、ヤマメの養殖事業を始めた。誤算だったのは、生き物相手のビジネスは、いっそうの「ワーク」ばかりで、2年半で2日しか休めなかったことだ。(その後創業した「エマメイ」という会社の名前は、ヤマメを逆さに読んだものである。)
話を戻すと、ワークライフバランスが、仕事と「私生活」のバランスであっても、「キャリア」や「人生」とのバランスという文脈であっても、「トレーナー制度」のような中立的な識者との面談は有効だ。メンタル面のケアを中心に考えれば、面談役は臨床心理士やカウンセラーなども選択肢になる。他人と言葉を交わすことなく一日が終わる職場もあると思うが、心身のバランスを修正するには、人との対話が必要であると思う。
大塚 寿