仕事とギャンブル。この2つはお互いに関連していて、影響しあっている――少数ではあるが、そのように考えている人がいる。欽ちゃんこと、萩本欽一さんもその一人だ。人が持っている「ツキ」の総量は決まっているから、仕事がうまく行っているときはギャンブルで損するようにして「ツキのバランス」を取るというのだ。元週刊現代編集長の元木昌彦さんが著した『競馬必勝放浪記』(祥伝社新書)では、欽ちゃんの次のようなエピソードが紹介されている。
「仕事と競馬の両方がツクということはない」
競馬歴40年以上の元木さんは「長く競馬を楽しむためには、大きく負けない馬券の買い方をしなければいけない」と書いている
萩本さんも競馬大好き人間である。自分でも何頭か所有していたことがある。確かパリアッチという馬はダービーに出たと思うのだが。
売れない頃は馬券をよく当てて生活費にしていたと言うが、売れっ子になってからは、彼独特の考え方で、「競馬場におカネを置いてくるのよ」と話してくれた。
それは、仕事と競馬の両方がツクということはない。
だから、仕事でツキまくっているときは、競馬ではつかないようにわざわざハズレる馬券を買うというのだ。
人の一生というのは、誰もが同じ大きさの「運」を持っていて、一生かけて少しずつ使うか、ある時期にいっぺんに使ってしまって、最後は悲運の内に死を迎えるかのどちらかだと言うのだ。
確かに、ロッキード事件の田中角栄、小佐野賢治、児玉誉士夫などの運命を見ていると、そうしたことが言えるのかもしれない。
私の人生も競馬も、大きな幸運もなかったけれど、さしたる不運もなくここまで来られたのは、ツキを均等割して生きてきたからなのかもしれない。それが良かったのか悪かったのかは、棺を覆ってから定まるのだろう。
(元木昌彦『競馬必勝放浪記』〔祥伝社新書 132頁~133頁〕より)
(会社ウォッチ編集者Kのひとこと)
『競馬必勝放浪記』と書名に「必勝」の文字が入っているが、いわゆる馬券必勝本ではない。「週刊現代」や「FRIDAY」などの編集長を歴任した著者が、競馬を通じて知り合った著名人――大橋巨泉や寺山修司、山口瞳、本田靖春、浅田次郎など――との思い出をつづった。巻末には著者オリジナルの「横着者の馬券術」も掲載されていて、たまに馬券を買う人の参考になる。その直前にある「お奨めの競馬関係本10冊(必勝本は除く)」が渋くて良い。