個人の持つ知識や情報を組織全体で共有して、組織を活性化させようという試みは、10数年前のナレッジマネジメントに始まり、オフサイトミーティング、イントラネット、社内SNS等々、さまざまな形で実施されている。しかし、期待したほどの成果がなかなか上がらない。そんなときは、肩の力を抜いた「飲ミュニケーション予算」を計上して、プロジェクトや仕掛けを補完してみてはどうだろうか。
「喫煙者の新人は成長が早い」のは俗説か
笑い話と信じたいが、「会社の中でもっともナレッジが集積している場所は喫煙室」という説がある。喫煙という共通の嗜好もあいまって、通常の業務フロアにはない、さまざまな階層や世代、部署の人間による非公式のコミュニケーションが活発になっているそうだ。
そこには仕事に役立つ情報やナレッジ(知恵)、ライフハック(仕事術)といったものが集積され、伝承される。となると「喫煙者の新人は、非喫煙者よりも成長が早い」というのも、俗説と一蹴できない現実味がある。
だからと言って、みんなでタバコを吸いましょうというのではない。その喫煙室の持つ不思議な機能だけを、煙なしに職場に持ち込む方法はないものかと考えた次第だ。
「タバコの次は酒かよぉ~」
「この不景気のどん底に、バブル時代に戻れというのか?」
「今の新人を誘ったところで、ついてくる奴なんていないね」
といった声も聞こえそうだが、酒の誕生とともに成立したであろう、この「飲ミュニケーション」の効用を、もっと積極的に会社運営に取り入れようではないか。
規模に関係なく、さまざまな業界、企業で「飲ミュニケーション予算」が採用され始め、成果を上げている。中には、飲み会を定期的に開いているかどうかを管理職の査定項目にして、この不況の最中にも好業績を上げているメーカーさえ実際にある。
「最近の若い奴」は飲み会の効果を認めている
10年ほど前の話だが、かつての上司が「最近の若い奴は誘っても断ってくるから、3回断られたらもう誘わない」と寂しそうにつぶやいていた。同様な体験をしたシニアの方もいるだろうし、逆に上司の誘いに辟易した30代の方も多いだろう。
しかし、最近の職場では逆戻り現象が起きている。件の若い奴というのは「ジェネレーションX」といわれる世代で、アフター5はプライベートを優先させる傾向が強かった。しかし、それに続く「ジェネレーションY」世代(1980年代生まれ)の新人は、安定志向の中で上司や先輩との「きずな」を求め、社内イベントへの参加による人間関係構築が大切だと考えているのである。
日本能率協会の「会社や社会に対する意識調査」によると、2008年度入社の新入社員の88.6%は職場の人間関係構築に飲み会が有効と考え、70.4%が社員旅行を、50.1%が運動会を支持している。まさに「最近の若い奴は誘っても断ってくるから…」が一昔前の話になってしまったことを意味している。
そういえば、私自身の体験でも、新人研修などで新人個別の飲み会に誘われることが多くなったし、同業のコンサルタントからも、その手の話はよく聞くようになっている。
ならば、最大限「飲ミュニケーション」の効用を活かして、職場の一体感を高め、組織運営にドライブをかけようではないか。組織運営に活かす以上は、個別の自腹の飲み会ではなく、予算化し、会社負担での飲み会の機会を増やしたい。会社負担となると、個別の飲み会を嫌うジェネレーションX世代たちも、不思議なことに参加するようになる。
「飲ミュニケーション」予算はあんがい安上がりだ
もちろん「飲ミュニケーション」だからといって、会場は赤ちょうちんばかりである必要はない。イタリアン、中華、焼肉だっていいではないか。特に職場の下戸比率や女性比率が高い場合は、食事や雰囲気が楽しめる場所選びも不可欠になる。
「飲ミュニケーション」というのは不思議なもので、その場の流れで会社や部門の方針に関する愚痴が出ても、やり取りの中で逆にその理解・浸透を深めることができたりする。また、メンバーの行動に対するデリケートなフィードバックの機会に使えたりと、職場運営のクッション的な役割を果たしてきた。つまり、職場の活性化に直接的につながるというより、「活性化を阻害する要因」に対してすぐれた免疫作用を持っているのだ。
さらには、この「飲ミュニケーション」予算、実は非常に安上がりである。たとえば、四半期ごとに社員1人あたり5,000円の予算を計上しても、年間2万円。40年間でも、たった80万円だ。1人あたり生涯「飲ミュニケーション予算」が、「採用コスト」や「研修コスト」よりも安くつく現実を考えれば、戦略的に用いない手はない。
大塚 寿