独立開業するには、どのくらいの資金を用意すればいいだろうか。一般的には、最低半年、できれば1年間無収入でも生活していけるお金があるといいと言われている。今回は、開業後の運転資金のポイントについてお話したい。
独立前に「資金」と「取引先」を確保しておこう
独立当初は、見込み通りに売上があがらないことが多く、仕事が軌道にのって収入が安定するまで、ある程度の時間がかかる。また、納品しても、会社の給与のようにその月末に入金されるわけではない。業界や業種にもよるが、短くて1ヶ月、長い場合は3ヶ月、さらに半年先の支払いということもある。
独立資金には、開始までに必要な「開業資金」と、開業後に必要になる「運転資金」とがある。半年から1年分の生活費というのは、後者の運転資金のことだ。だが、独立前に、この運転資金を計算に入れていない人がけっこう多い。一大決心をして独立したにも関わらず、1年未満でリタイヤに追い込まれてしまう個人事業主が4割もいる(第4回コラム)のは、この資金の読みが甘いためだ。
結局のところ、独立後にどこまで頑張れるかの限界は、手持ち資金の大小で決まってしまう。開業後に「お金が足りない!」ということにならないように、開業資金と運転資金はしっかり見積もっておきたい。
もう1つ、読みの甘さが出るのが、新規の取引先を確保するために要する「時間経費」だ。稼動しても売上につながらなければ、収入はゼロ。その間の生活費は全て自己資金から補填しなければならない。
実際、取引先のアテがないまま独立することは、かなり無謀なことといえる。その分、運転資金が多く必要になってくるため、第6回でお話したように、取引先は独立前にできるだけ確保しておくことが賢明だ。
あらかじめ「投資金額の限界」を決めておこう
運転資金で重要なのは、用意できる資金の中から事業へ投入する金額をいくらまでにするかをあらかじめ決めておくことだ。というのは、事業の採算性や仕事のやり方自体に問題があるのに、「もう少しがんばれば、もう少しやればなんとかなる……」と自分を励ましながら、お金が底を尽くまでやり続けてしまうケースが少なくないからだ。独立してお金で失敗すると、仕事どころか、人生のやり直しさえも大変になることがあるから、注意してほしい。
企業であれば、採算がとれない新規事業はテコ入れをして、それでもダメなら撤退という判断をくだす。お金は、利益を生み出すことに使わなければならない。しかし、個人事業主の場合、そのような冷静な経営判断を、自分自身に対してくだすことはとても難しい。
全力でやっても、期待した成果と大きくかけはなれた場合は、対策を考えたり、やり方を変えたりすることが必要になる。あらかじめ自分へ投資する金額のリミットを決めておけば、深刻な事態へ陥る前に、立ち止まって考える機会も持つことができる。
場合によっては、事業をあきらめることが最良の選択ということもある。ただ、その見極めはとても難しいのが現実だ。成功した人はみな、口をそろえて「あきらめずにやり続けたから」と言うからだ。
しかし、すでに何回も書いているように、個人事業で5年、10年と継続できる人は驚くほど少ない。窮地に立ったときに自らを客観的にみつめる勇気と、事前に投資金額の限界を決めておくという知恵をもってほしいと思う。
塚田祐子