仕事以外で会社の人たちと交流したくない――。そんな考えはもったいない。趣味や健康づくりを兼ねた「クラブ活動」で得た経験がうまく仕事にもフィードバックされていけば、職場のギスギスを解消して「熱い職場づくり」に効果を上げるだろう。
チームプレーの「共同体験」が仲間意識を形成する
日本の会社における「クラブ活動」の歴史は古い。野球、サッカー、テニス、ゴルフといった球技だけではなく、華道部、茶道部といった文化系サークル活動もあり、まるで学校だ。最近ではフットサルや自転車部も加わり、ホノルルマラソンや各種市民マラソンの参加を目標にしたランニング系サークルも散見される。
参加者は皆、休日や業務終了後の時間を使ってクラブ活動に勤しんでいるわけだが、この活動には福利厚生以外に意外な効用がある。
1つ目の効用は「親近感の醸成」である。ギスギスした職場に共通しているのは、上司や同僚たちが私欲のままに行動し、若手や派遣社員が孤立感を持ってそこにいる状態である。「職場の一体感」と言葉でいうのは易しいが、実際に「職場の一体感を作ってみろ」という要求に応えるのは至難の業ではないだろうか。
ところが、チームスポーツとは不思議なもので、いとも簡単に人と人との距離を縮めてしまう。練習試合や大会に備え、一緒に汗を流し、チームプレーに一喜一憂する共同体験が仲間意識を形成し、自然と親近感を作り出す。
「クラブ活動」は、完全に業務とは離れた課外活動であるが、そこで培った親近感や仲間意識は、職場に戻ったからといって希薄になるようなものではない。グラウンドや体育館での一体感が、職場でも保たれてしまう。それによって、中途半端な遠慮をしなくなったり、より強く叱ることができるようになったりと、人と人との距離が縮まり、信頼関係があればこそと思えるような対人関係が実現するのだ。
隣の課長は「熱狂的なボクシング好き」と知ってビックリ
2つ目の効用は「人となりの再発見」である。ある人物の職場でのイメージと、職場を離れた非日常でのイメージが全く異なるのは、よくある話だ。私の経験でもっとも鮮烈だったのは、新人の頃、たまたま知人の伝で入手したボクシングの世界タイトルのチケットが2枚あり、誰と行くか迷った時のことだ。
結局、その職場で最も熱狂的なボクシングファンは隣の課の課長であることが判明し、一緒に観戦することになった。それまで話をしたこともなく、営業の課長だったにもかかわらず口数の少ない職人タイプだったこともあり、升席に座った私たちは話題に窮してしまった。
ところが、試合が始めるや、寡黙だったその課長の態度は一変、絶叫で応援を始めたのだ。あっけにとられたが、私の方も呼応して絶叫し、試合自体もエキサイティングな展開だったので、会場全体が興奮の渦となった。
そんな熱狂体験を共有したためか、それからもその隣の課長とは一緒に昼食をとったり、大切な仕事の相談をするようになったりした。そんな緊密な関係になれたのは、非日常の熱狂の共有がきっかけだった。これはクラブではなかったのだが、業務外での交流は、頭で考えるよりも貴重な機会を生むことがある。もちろん、観戦を目的にしたクラブも作れるだろう。
クラブでの活躍が仕事に好影響を与えることもある
職場ではそれこそ「シュガー社員」の最右翼と目されていた新人君が、人数あわせのために借り出されたサッカーの試合で、意外な好プレーを連発。その後、サッカー部の中核メンバーとなる中で、仕事の方にも身が入り出した――。こういうのは、よくある話だ。
これは、新人君が自分の居場所を見つけた安心感から、仕事にも意義を見出せたのだろうし、まわりが新人君の存在価値を認識したことによって、居場所が確かなものになったと推測される。もちろん仕事で居場所を確保できればそれに越したことはないが、たとえそれがサッカーや野球の試合であっても、仕事によい影響が出れば、それでいいではないか。
そして最後、3つ目の効用は、やはり「リフレッシュ効果」ということになる。仕事上でのストレスや、気持ちの切り替えのためには、体を動かしたり好きなことに没頭したりするのが一番よい。ところが、これが一人だとなかなか難しい。そんなとき、クラブ活動の定期練習が一役買ってくれるし、生活習慣病の予防という効果もある。
仕事以外で会社の人たちと交流したくない、という考えもあるだろうが、もし会社に一緒にクラブ活動をしてくれそうな人たちがいるのなら、それは恵まれた環境でもある。ありがたみを感じて、心身の健康のためにも、ぜひクラブ活動に参加しようではないか。
大塚 寿