TBS・小林麻耶アナの独立が話題となっている。昔からネームバリューのあるアナウンサーが独立するのはよくある話だが、良い機会なので、女子アナの独立メカニズムについて、報酬システム的に考察してみたい。
世代間格差で会社に残るメリット減る
会社員の賃金カーブはかつてのような伸びを期待できなくなっている
まず独立のインセンティブだが、フリー転身による収入増にあるのは間違いないだろう。妹であるフリーの小林麻央は年俸1億とも言われているから、その影響もあるのかもしれない。
もちろん、テレビ局の基本給自体も高水準で、しかも終身雇用、年功序列で一定の昇給が見込めるといったメリットも大きい。ただこういったメリットは、「自分は平均より優秀だ」と自負している人間には、ほとんど魅力がない。彼らは結局、実力に見合った報酬を求めて飛び出すことになる。
もう一つ見過ごせないのが、業界全体のパイの縮小だ。ご存知の通り、テレビ業界は広告料低下のあおりで軒並み減収減益という惨状だ。本来、業績に応じて賃金水準は改められるべきなのだが、日本の場合、賃金は強い下方硬直性(つまり下げにくい)を持つから、カット分はこれからの昇給抑制と言う形で若手に押し付けられる傾向がある。
結果、同じ仕事、同じ会社であっても、中高年との間に世代間格差が生じてしまうのだ。こうなると、会社に残るメリットはさらに減ることになる。これから先、アナの独立心は一層掻き立てられることだろう。
日本型雇用では優秀層を囲い込めない
考えてみれば、これは一般企業において、若手が3年でやめる理由とまったく同じだ。たとえばここ数年、一部のメガバンクの新卒3年内離職率が急上昇しているが(3年で4割離職という年もある)、これは賃金カーブの急低下が原因だ。
もちろん「自分はせいぜい並だろう」と思っている人間は一生懸命しがみついてくれるのだが、会社にとっては全然嬉しい話ではない。日本型雇用ではなかなか優秀層を囲い込めないのだ。
「あれだけ売れっ子なのに、安月給でこき使うからだよ」とTBSを笑っている人は多いが、ひょっとすると同じことは自分の職場で起きているかもしれない。
城 繁幸