従業員のやる気に火をつける「インセンティブ」は、多くの会社で設けられている。要するにアメとムチの「アメ」だ。営業部門の報奨金や特別ボーナスを支給する制度などが、それである。プロ野球選手の成績に応じた「プラス出来高」というのもある。営業以外でも、研究開発や製造、スタッフ部門で採用している企業も少なくない。
元コンパニオンと「クリスマスイブ」に食事
著者新刊の『職場活性化の「すごい!」手法』では、さまざまなモチベーションアップ法を紹介している
私もサラリーマン時代には、月給や年2回のボーナスとは別に、年間100万円を超えるインセンティブを獲得していた。しかしダントツで嬉しかったのは、お金ではなく「フロアで好きな人とデートする権利」というインセンティブだった。シャレを解しない現在の無粋な組織では「セクハラ」と槍玉にあげられそうだが、あくまで私が新人時代の話だ。
その四半期にたまたまトップに立った私が「デート権」をゲット。頭が真っ白になるくらい嬉しかったことを今でも覚えている。さっそく憧れだった、同じ事業部の企画に属していた3歳年上の女性に、半信半疑でその権利を申告した。彼女は元つくば万博のコンパニオンだったほどの人だが、なんとその彼女とクリスマスイブに渋谷で食事をしたのだ。
もっとも、食事の間中ずっと励まされ続け、デートにはほど遠い、上司と過ごしているような雰囲気だった。そして食事の後は、またすぐ仕事に戻ってしまった。いま思えば、彼女は戦場で傷ついた兵士を看護するナイチンゲールのような心境だったのではないか。
限られた予算の中で、一丸となって現状を突破しようとしている職場なら、(本人たちの同意を得た上で)こういう遊びの要素を入れてみてはどうだろう。新鮮な気持ちで新たな取り組みを促すことになるかもしれない。
マンネリ化した表彰には「変化球」を盛り込む
多くの会社で採用されているインセンティブだが、効果的に運用するのは案外難しい。いつも同じ人ばかり表彰していては白けてしまうし、長期間のインセンティブは中だるみしがちだ。営業などは、担当顧客やエリアによっても業績が影響されて、公平さを保つのは難しいのに、それを数字だけで評価されてはたまらない。
せっかくのインセンティブの効果が上がっていないな、マンネリ化してきたかな、と思ったら、新しい表彰項目を設けてみてはどうか。コツは「変化球」を混ぜることだ。ゴルフコンペの「ブービー賞」と同じ配慮である。
売上数値の1位、2位だけでなく、他のメンバーへ良いアドバイスを提供した人を表彰する「ベストアシスト賞」や、雰囲気を盛り上げてくれる人を表彰する「ムードメイク賞」などを設けて、各メンバーの存在価値を認めてあげることも効果的だ。
苦しみながら努力している若手の頑張りを認め、将来への期待を込めて「大器晩成賞」をあげたってかまわない。思いついたらすぐ動く「腰が軽いで賞」(尻ではない)は個人的にも取り入れたいし、同僚が喜ぶ「笑顔」を大切にしている人にも何かあげたいところだ。
どんな高い売上をたたき出すトップセールスマンでも、たった一人で仕事を続けていくことはできない。現在と将来の成果に結びつく真摯な取り組みを観察し、プロセスも適切に評価してあげることは、職場活性化において重要なことである。
コールセンターには「お菓子のつかみ取り」を
インセンティブは、日々のルーティーンでも取り入れることができる。たとえば「お菓子のつかみ取り」というインセンティブだ。電話によるアポイント取りの受け皿となるコールセンターは、100本電話して2~3件アポが取れれば上出来の仕事だ。電話をかけるたびに不機嫌に邪険に対応されるのが仕事のようなもので、これが楽しいはずがない。
そこで、大きな箱をきれいにラッピングし、お菓子でいっぱいにして置いておくわけだ。そしてアポが一本取れるたび、このお菓子箱から一つかみだけお菓子をすくうことができるようにしておく。
子どもだましみたいな仕掛けと思われるかもしれないが、こういうインセンティブは意外と効く。ユニークであることはもちろんだが、そもそも、不愉快な単純作業には、甘いものがよく効くのだ。ただし、くれぐれも虫歯には注意。
大塚 寿