以前「シュガー社員スイッチ」について説明したように、素直だった若手社員が、突然シュガー社員に変身して驚くことがあります。その原因は、これまで問題とされていなかった職場の価値観や習慣、企業風土が、若手社員から「受け入れられない」「付いていけない」と思われているからかもしれません。
「会社のために頑張って欲しい」では納得されない
経済成長期を経験した40代以降であれば「会社のためになることが、自分のためになる」という意味が理解できるのではないでしょうか。会社に貢献することで、会社が成長し、自分も評価されて、給料が上がるというサイクルです。
しかし、低成長時代となり、企業不信も根強くなっている現在、「会社のために頑張って」と言っても、「どうせ要らなくなったらポイするんでしょ!」「滅私奉公なんてごめんだ」と否定的に捉えられてしまいます。そして、「ワンルームキャパシティ型」のように頑なにマニュアルへ逃げ込んでしまうのです。今の若手には「会社のため=あなたのため」では心に届きません。
また、面倒な仕事を「君のためになる仕事だから」と丸投げすると、すぐに“イヤな上司”のレッテルを貼られてしまいます。新入社員はまだ何もわかっていないのだから雑用から、という企業も多いでしょう。確かに、雑用から得られるものはあるのです。仕事というものは、その大半が見栄えのしないものの積み重ねでもあります。
しかし、仕事の与え方に工夫がなければ、今の若手には「やらされている感」だけが残ってしまいます。本人が得られるものをある程度示して仕事を与え、その実感を確かに味わわせる事ができなければ、「結局はうまいこと言われてコキ使われた」とモチベーションを下げてしまうのです。
頑張ったご褒美は「ゆくゆくは」ではなく「いま」
営業成績を上げて欲しい、今より高い成果を出せるようにして欲しい、会社目標の達成に向けて全力を尽くして欲しい――。そんな思いから、何らかのインセンティブ(報奨)を設定する場合、今の若手には「ゆくゆくは」という未来形で、漠然とした約束をしていては効果が薄くなっています。
その理由は、経済や社会の変化に影響されて、見込みや約束が果たされないことが多いからです。「頑張ったら正社員」と見込んでいたのに「業績不振でそれどころじゃなくなった」とか、「目標達成したら海外旅行」を予定していたのに「いつになったら行けるのでしょうか」とか、そういう目に遭っているわけです。
ましてや「頑張ればゆくゆくは管理職」など、何年も先のことはインセンティブになりません。プライベートを最優先させる「私生活延長型」も、会社から約束を反故にされることへの抵抗のあらわれかもしれません。
ご褒美は長引かせるものではなく、実現可能な範囲でよいので、確実に実現することを繰り返す方が効果的です。そもそも何らかの期待があるからこそ、モチベーションも上がるわけですが、期待だけさせておいて「できない。すまん」の繰り返しでは、いつ一揆が起きてもおかしくありません。期待が裏切られると、頑張った本人に恨めしさが募るものです。「信頼は、約束と実行で築き上げるもの」と心得ましょう。
「打たれ弱い」だけで解決してはいけない
仕事の注意をしたら、次の日に欠勤された――。「プリズンブレイク型」に代表されるシュガー社員には、よくあるケースです。しかし、これに対して「どうも今どきの若者は打たれ弱いな~。ハハハハ」だけで終わらせると、シュガー社員の増殖を抑えられなくなります。
最近の若手社員は、以前と比べて打たれ弱くはなっていますし、「俺リスペクト型」のように根拠なくプライドが高いのは事実です。とは言っても、注意を与える方も、人格を否定する言い方でなかったか、部下に対する好き嫌いで行われていなかったか、などを注意深く検証する必要があります。
今の中堅以上の社員・役員は、若い頃に先輩や上司から暴言を吐かれてもひたすら耐え、強くなって現在の地位を手に入れたのかもしれません。しかし、その方法は今の若手社員には「パワハラ」、すなわち権力を不当に行使した嫌がらせ以外の何ものでもないのです。
自分が受けた教育方法を、そのまま若手社員に適用すると、あっという間につぶれてしまいます。決して甘やかせということではありませんが、若手社員がダメになる原因が「打たれ弱い」ということだけでもないということを理解して下さい。
「こんなことが起こるのは、よほど古い価値観の会社じゃないのか?」と思われる方がいるかもしれませんが、自分に刷り込まれたやり方のマズさは、自分では気づきにくいものです。慎重に振り返ってみる必要があります。過保護な「ヘリ親」のクレームを受ける場合もあるでしょうが、指摘を受けて謙虚に考えてみることも必要かもしれません。
今の若手は、これまでの従業員たちとは感性が違うのです。新しいITサービスを生み出そうとするヴェンチャー企業が、マネジメントでも新鮮味を出そうとしているのは、象徴的です。仕事に不都合が起きない限り、自分と違う価値観を強く否定せず、相手の立場に立って「多様性」を受容する職場づくりをすることも、若手育成の環境づくりとして必要なことでしょう。
田北百樹子