なぜ派遣は切られたか?もう一つの理由「09年問題」

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   知り合いの人事担当者と会話していた時のこと。問題となっている派遣切りの話題となった。

「実はうちも派遣さんを何十人か切ってねぇ」
「やっぱり会社は大変なのかい?」
「いや、そういうわけでもないんだ。実際、仕事自体はそんなに減っていないし」
「え?じゃあ何があったの?」
「ほら、例のアレだよ、09年問題だよ」

   06年、偽装請負の問題化などから、大手製造業は一斉に請負から派遣社員へと切り替えを進めた。一方で、派遣社員は受け入れ3年後に直接雇用が義務付けられている。ラインを変える、いったん契約を解除しておいて3ヵ月後に再雇用するといったような対策も考えられたが、それらをもっとも熱心に潰して回ったのは共産党だ。どうやら彼らは本気で、派遣労働者の正規雇用が可能だと考えていたらしい。

   結果、大手製造業は、09年中に直接雇用に切り替えるか、それとも雇い止めするかの選択を迫られていた。直接雇用はできないから柔軟な派遣を選んでいたわけで、雇い止めせざるをえない企業が多かったはずだ。事実、非正規に対する保護規制を強化する度に、大量の非正規雇用労働者が解雇されるという事例は、韓国で数年前から問題となっている。

   もっとも、期限と同時に大々的にそれをやったら、ここ日本では大ブーイングだ。さて、どうしたものかと企業を悩ませていたのが09年問題である。もうお分かりだと思うが、そんな悩める企業にとって、今回の金融危機は渡りに船だった。赤信号、みんなで渡ればなんとやら。大量の派遣切りの中には、3年ルール回避のための便乗切りが相当数含まれているはずだ。ちなみに不必要な首切りで残された仕事は誰がやるのか。正社員による残業か、海外も含めたアウトソーシングだろう。

アピールすべきは正社員保護の規制緩和だ

   非正規雇用労働者と正社員の格差は是正されるべきだし、安易な使い捨ては規制すべきだろう。ただし、僕は株主至上主義者ではないが、ユートピア論者でもない。企業に一方的に人件費引き上げを命じるだけなら、単に失業率が上がるだけだ。あの時は、同時に正社員に対する規制緩和も実施すべきだった。「かわいそう、かわいそう」と大騒ぎするだけなら猿でもできる。問題は何が本質的問題であるかを見極め、有効な対策を立案する論理的能力だ。

   年末年始の派遣村の趣旨自体は正しかったのだろう。ただ、あの中に本当に便乗切りで職を失った元派遣社員がいたとしたら、実に皮肉な話だ。彼らは自分たちが職を失うきっかけを作った共産党の支援を受けながら、自分たちをさらに追い込むであろう派遣規制をアピールさせられたのだから。

   アピールすべきは規制ではなく、同一労働同一賃金の実現、そしてそのための正社員の保護規制緩和だ。「同じ労働者同士、団結しよう」という連合の言葉は、「世界が平和でありますように」レベルのユートピア論でしかないのだ。

   派遣村で誰かが「これは自己責任ではない、政治責任だ」とコメントしていたが、まったく同感だ。それは既得権見直しを最後まで拒んだ社会と、その意を汲んだポピュリズムの責任である。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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