よく企業の採用基準について、こんな質問をもらう。
「要するに給料分、たとえば30歳500万とすると、それだけの価値があるかどうかを見るんでしょ?」
そりゃ外資の話だ。日本企業が人を採る際は、「500万×30年=1億5000万」の価値があるかどうかを見る。実際には定昇やベアでさらに上がり、下がることはないのだから2億くらいか。実は正社員を採用するというのは、とんでもなく高い投資なのだ。
強きものだけが生き延び、善人ぶって既得権にしがみつく
当然ながら、採用されるのはきわめて優秀な人間のみとなる。能力のないものは無論のこと、年俸制なら普通に採用されうる人間でも、リスクが高いと判断されれば敬遠されることになる。
前科がある人間、借金のある人間、以前の職場で懲戒歴がある人間、年を食った中高年、職歴のないフリーター、ニート、女性、難病のある人間。ぜんぶ選考段階ではねられる。強きものだけが生き延び、善人ぶって既得権にしがみつく。
だから日本企業は、仕事が増えても採用よりは社員に残業させる方が好きだし、めいっぱい残業させ、それでも人手が足りない時は非正規雇用を使いたがる。非正規の場合は基本給の300万で済み、後に×ウン十年なんて妙なヒモはつかないためだ。
もっとも、正社員の人件費はがっちり法でロックされているため、人件費原資から正社員人件費をまず確保し、残った分を非正規側にまわすことになる。(仮に正社員と公平な競争が行われていた場合に比べると)相当安く買い叩かれることになるし、この状況で同一労働同一賃金なんて幻想に過ぎない。
そこで、まずは正社員の規制を緩めて流動化しろというのが労働ビッグバンなのだ。オランダをはじめ世界中でやっていることであり、なんら珍しいことではない(同一労働同一賃金が実現している国では正社員の解雇も賃下げも容易だという事実は、なぜか日本ではあまり報じられない)。