会社の中の空気が「灰色」に見えた
上がそんな調子だから下も荒れる。「こんなことをやっていても、どうせつぶれるんでしょ」と職場でウイスキーの瓶をあけている者もいれば、「あのとき、こうしておけばよかったんだ」と無意味な役員批判を繰り返す者もいた。どう見ても、まともに仕事をする気にはなれない環境だった。
社内の設備も劣悪になる一方だ。ファクスは50台リースしていたのが5台に減り、行列待ちが発生。待っているうちにイライラが頂点に達して切れ出す者もいる。人が消えて歯抜けのようになった机の上には、グチャグチャの書類が散乱していた。
「会社の中の空気が『灰色』になっているように見えました」
と、Tさんは振り返る。
そんな環境にいると、社員の体や心も壊れていく。ある役員は内臓をやられたのか、顔がどんどん黒くなっていった。また、それまでパリっとしたスーツできめていた人が、髪ぼさぼさのジャージ姿で出社するようになってビックリしたこともあった。10円ハゲになったり、髪全体が薄くなったりする者もいた。なかには、ノイローゼになって家から出てこられなくなった同僚も……。
こんな地獄絵図がいつまで続くのか。そう思っていた。ところがある日、別の会社に買収されることが決まった。倒産寸前で命拾いしたのだ。だが、Tさんはきっぱりと言う。
「あんな思いは、二度と経験したくありません。たとえ、疑似体験できるアトラクションがあっても、絶対にイヤですね」