できる人間ほど先に辞めていく
それが引き金になって、どんどん人が辞めていった。いい立場にいる人間や仕事ができる人間ほど先に辞めていく。ほどなくして企画部門のトップがいなくなり、戦意を喪失した営業部の者たちも社を離れていった。
一人で辞めるのではなく、部下を何人か連れて別の会社に移っていく"集団脱走組"もいた。かつていた会社に出戻ったF部長は、子飼いの部下を数人引き連れて行った。それはまるで、沈みゆくタイタニック号から救命ボートで逃げ出す人たちのようだった。
当時20代半ばだったTさんは「この裏切り者め!」と憤慨していたが、いま振り返れば、彼らにも守るべき生活があったから仕方なかったのだろうと思う。
人が次々と去っていくから、送別会が毎日のように開かれた。そのうち開くのが面倒くさくなってしまうほどに。印象的だったのは「寄せ書き」の変化だ。
「人がやめるたびに送別会を開いて寄せ書きを贈っていたんですが、だんだん寄せ書きに書く人の数が減っていくんですよね。スカスカになっちゃうので、『一人何行以上書くようにしよう』と言い出すヤツもいたりしましたよ」