「若者切り」でいいのか?内定取り消す「企業の愚」

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   一部の企業において、09年度入社予定者に対する内定取り消しが起きている。判例では内定の時点で雇用契約は成立するとするが、組合員でもない内定者は手っ取り早く"リストラ"しやすいのだ。

   ちなみに、企業がリストラする場合、お手軽度はこういう順位になる。

新卒採用抑制>内定取り消し≫正社員リストラ
労働分配率(=企業が新たに生産した付加価値全体のうち労働者に分配された比率)は2001年をピークに減少している
労働分配率(=企業が新たに生産した付加価値全体のうち労働者に分配された比率)は2001年をピークに減少している

   お手軽度二番目の「内定取り消し」が話題になるようだから、来春の就職戦線はそれなりに厳しいものになるだろう。一方、リストラといっても日本の場合、「おまえ今日でクビだから」なんてことは出来ず、早期退職募集や再就職先斡旋などの手続きを経なければならないため、企業にとってこれは最後のカードだ。

   たとえば、2000年前後の平成不況の底において、正社員はとても恵まれた存在だった。剰余金などを食いつぶしつつ、企業も賃金雇用を守らざるを得なかったためだ。そういう意味では、労組が言うような「経営者による搾取」なんてものは存在しなかった(中学生レベルの予備知識だが、資本と経営が分離している以上、首切った分だけ自分の取り分が増える経営者は現代日本にはまずいない)。

   その一方で、もっともお手軽な"新卒採用抑制カード"はフルに活用された。そうして生まれたのが我らが就職氷河期世代である。なんといっても60年代以降唯一、新卒求人倍率が1.0を割り込むほどだったのだから、2倍を越えた07年からすると寒い時代だった。そういう意味では、確かに搾取はあるにはあった。それは同じ労働者内、具体的には80年代を通じて昇給しすぎた中高年正社員と、その後に世に出た若者との間に存在したのだ。

若者にだけ負担を押し付けるのは不合理だ

   その後労働分配率は低下するが、これは非正規雇用と言う形でさらに安く若者を買い叩けたこと、そして何より高給取りの団塊及び+αの世代が無事逃げ切ったためだ。もっとも成長の時代が終わったことに変わりはないため、調整ツールとして非正規雇用は必須であり、今まさにフル活用されている。

   さて、ここで本題に入ろう。果たして組織にとって、そして社会にとって、お手軽だというだけで若者の未来をリストラすることがベストなのかということだ。新人の初任給なんて削ってもたかが知れているし、何より彼らは貴重な働き手でもある。普通、ダイエットするなら体に付いた無駄な脂肪を減らすだろう。己の手足を食べるのは、足が8本あるタコくらいのものだ。

   僕は別に中高年全員の賃下げや降格をしろと言っているわけではない。その部分の規制を緩和することで、彼らは努力し、結果として組織は活性化するだろう。若いからと言う理由だけで若者にだけ負担を押し付けてしまえば、社会はやがて莫大なツケを払う羽目になる。

城 繁幸

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人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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