前回のコラムでお話したように、サラリーマンに向かないからといって安易に独立しても、成功できる確率は非常に低い。経営環境も厳しくなる一方なので、起業したいと思っても現実に行動に移す人の数(創業実現率)は年々減ってきているようだ。そんな中、会社に留まりつつも「契約形態」を通常の雇用契約とは違ったものに替える「インディペンデント・コントラクター」という働き方が注目されてきている。
業務単位に契約を結ぶインディペンデント・コントラクター
インディペンデント・コントラクター(独立業務請負人)とは、専門性の高い仕事を請け負い、雇用契約ではなく業務単位の請負契約を複数の企業と結んで活動する 独立・自立した個人のこと。日本でインディペンデント・コントラクターの先駆けとなり、NPO法人インディペンデント・コントラクター協会をつくられた秋山進氏に、サラリーマンを辞めた経緯をお伺いしたことがある。
秋山氏は、大学卒業後リクルートに入社、企画マンとして数々の実績を残された。入社11年目を迎えたとき「会社の枠の中でできることをやり尽くしてしまった気がした。今後の自分のレベルアップを考えた時に、そのままでは井の中の蛙になってしまうという危機感を感じて……」転職を決意。転職先で、社員ではなく業務単位の契約を結び、それ以後、独立業務請負人として仕事をされている。
フリーランスや会社をつくって起業するのとの違いは、独立すること自体が目的ではないことだ。
「経営コンサルタントは、会議室までしか入らないけれど、僕らはオフィスに入る。社内に席もあるし、契約期間内はその会社の人間として対外的に動くことも多い。そういった仕事をする会社が、一社ではなく複数社あるということです」
こうした働き方をするにはもちろん、プロとしてどこへ行っても通用する能力を持っていることが大前提になる。
「職人として生きていきたい」
秋山氏のお話の中で印象に残ったのは、「職人として生きていきたい」という言葉だった。
「基本的に職人なんです。企画マンとしての自分は、職人として生きていきたいのであって、スタッフを増やして、会社を大きくしていきたいとは思っていない。インディペンデント・コントラクター協会のメンバーのメインは、難易度の高い仕事にチャレンジするところに喜びを感じる仕事人です」
職人タイプは自分の専門性を磨き、興味・関心をそそられる領域の仕事を掘り下げていくことにやりがいを感じる。こうした専門性を志向する人たちの職種には、クリエイターやエンジニア、コンサルタント、インストラクターなどがある。仕事の内容そのものに強くコミットするので、肩書きや会社のネームバリューよりも、自分のスキルをさらに高めることのできる仕事を求めていく傾向が強い。このような職種において、インディペンデント・コントラクターという働き方は、理想的な選択肢の一つになるだろう。なぜならば、本業の仕事に没頭できるからだ。
インディペンデント・コントラクターになるための方法
秋山氏は、インディペンデント・コントラクターへの道として、次のような"デビュー方法"をすすめている。
「会社へ入社後、一人立ちしても食べていける力を持ったら、そこで、会社との雇用契約を解除してもらい業務委託契約を結び直します。それで食べていく分を確保して、他の企業の仕事をとっていく。これが成功の王道です」
会社サイドも、優秀な人材は失いたくないので、「他の会社の仕事をやってもいいけれど、ウチの仕事も継続してやってほしい」ということになるようだ。
雇用の流動化といっても、日本では、欧米のように転職を繰り返しながらスキルアップしていく、というやり方はどうも馴染まないように思う。独立はリスクが高すぎる。そこで、勤めてきた会社との関係を長期的に維持しながら、自分の実力を発揮する場所を拡げていく。このようなスタイルのほうが、専門性を追及したい職人タイプにとっては望ましいのではないだろうか。
塚田 祐子