このコラムの第2回で紹介した「安定より自由が欲しいタイプ」や、第3回で取り上げた「組織に向かないタイプ」の人は、サラリーマンにあまり向いているとはいえない。だが、いざ独立を選択しようと思っても、「果たしてやっていけるかどうか……」と不安になって二の足を踏んでしまう人は多いだろう。事実、独立して成功する確率は、想像以上に厳しいものがある。
独立した人の4割が1年未満で脱落してしまう
フリーランスや個人事業で独立すること、それ自体は、いたって簡単だ。「よし、独立しよう!」を決意さえすれば、極端な話、明日からでも始められる。会社をつくるにしても、最低資本金制度が撤廃されたので、手持ち資金でOK。資本金1円からでも株式会社ができる。
大変なのは、独立後だ。自分の力で稼ぎ、収入を安定させ、それを継続していくことは容易なことじゃない。
独立して成功する確率を、中小企業白書(2006年版)「開業年次別 事業所の経過年数別生存率」のデータに求めると、個人事業で創業した場合、なんと創業者の約40%が1年未満に脱落している。3年目をクリアして、5年後まで継続できる人はわずか約25%。創業から5年で、4分の1にまで減少してしまう。そして、10年後まで生き残っている人は10%にすぎない。
問題は、なぜこんなにも多くの人が、独立に失敗してしまうのかということだ。ここに会社員時代には見えない、大きな落とし穴が隠れている。
独立志向の人は「経営的発想」で考えよ
会社にいるときは、自分が担当している仕事をキチンとやっていれば、毎月お給料がもらえる。しかし独立すると、「仕事を取るところからが仕事」になる。しかも、利益が出るようにやっていかないと赤字になってしまう。そうなると、自分のお給料どころではない。仕事をすることで、かえって借金を増やすことになってしまう。
仕事をこなすスキルと、自分の能力を生かして「お金を稼ぐ」ことというのは、全く別の能力である。ところが、それを見落としたまま独立してしまう人が多い。しかも、競争相手がたくさんいる中へ、何の戦略も立てずに飛び込んでいっては、生き残る確率はますます低くなってしまう。
個人でやる場合は、1人で何役も兼ねなければならないため、より戦略的な考え方が必要になる。独立後に経営的・戦略的な思考に切り替えられないと、生存率を自ら引き下げることになってしまうのだ。
人間関係の構築ができない人は独立に向かない
独立する際に見落としがちなことが、もう1つある。それは、独立したら、人間関係の構築が何より大切になるということだ。もし、会社に向かないと思うことの裏側に、社内での付き合いが煩わしいとか、上司や部下とうまくいかないことへの不満や悩みがあるとしたら、それは、独立することで解決するどころか、さらに大きな悩みをもたらすことになってしまう。
仕事は人のつながりで拡がり、人間関係の上に成り立っていくものだから、仕事がデキるとか技術力があるという前に、人と良好な関係を保っていこうと努力する姿勢が必要になる。コミュニケーション力不足をそのままにして独立してしまうと、人間関係のストレスをさらに増やすだけだ。
もし独立する道を選択しようと思ったら、今すぐに、スタッフの発想から経営的発想へ切り替えることをおすすめしたい。すると、視点が変わるので、会社に対する見方も違ってくると思う。独立後に主要取引先となるのは、退職した会社というケースは少なくないため、会社の人間関係は、くれぐれも大事にしておこう。
塚田 祐子