好きな人に告白しようとするときは、なにかプレゼントを渡しながら思いを伝える。そんな人が多いのではないか。恋の小道具となるプレゼントには、大きなものから小さなものまで、高いものから安いものまで、さまざまなものがあるだろう。社内結婚必勝法第5回に登場した宗方智さんが小道具として選んだのは、中古のバイクだった。
いらなくなった「古いバイク」をプレゼント
「こんなに自分と合う子は、後にも先にももういない」
自分の会社に1年遅れで入ってきた新人、古田ひかりさんにこれまでにないものを感じた宗方智さん。デートする機会はなかなか訪れなかったが、ひかりさんが入社してから1年たった春、ついに告白のチャンスがやってきた。チャンスを作ったのは、ほかならぬ智さんだ。
「僕は50ccのちっちゃい原付バイクを持っていたんですが、まったく乗る機会がなくて誰かに譲ろうと思っていたんです。ちょうど彼女はバイクとかの足がないと不便なところに住んでいた。そこで『バイクいらないけどほしいか』と聞いたら、『ほしい』と答えたんですよ」
智さんはひかりさんの自宅までバイクに乗っていき、愛車をプレゼントした。この原付バイクは70年代ぐらいからあるような古いタイプで、クラッチがついた旧式のバイクだった。ひかりさんは乗り方が分からなかったので、近くの河原で暗くなるまでバイクの乗り方を教えてあげた。
その帰り道、駅前の喫茶店に寄った。そこで勇気を出して、ひかりさんに告げたのだ。
「つきあってほしいんだけど……」
社内恋愛を隠すために「時間差出勤」してみたが……
ひかりさんの返事は、
「ちょっと考えさせてください」
というものだった。すぐに回答がもらえなかったのは、ひかりさんにとっては突然の告白で、戸惑ったためかもしれない。だが、翌日会社に行くと、
「よろしくお願いします」
と、ひかりさんが言ってくれた。あとから聞いた話では、「好きな映画俳優が共通している」ことから、彼女も智さんとは気があうと感じていたらしい。
つきあい始めてからは早く、数ヶ月後には一緒に住むようになっていた。しかし社内では交際していることを黙っていた。
「仕事をやるうえで、私情がからんでくると何かと面倒ですからね」
出社するときは、一緒に家を出ても途中の駅で別れて「時間差出勤」となるように工夫した。お昼どきに食事をするときもバラバラに出て、外で落ち合うようにした。
しかし、あるとき二人で一緒に食事をしていたら、先輩にバッタリ出くわしてしまい、バレてしまった。
「警戒心が足りなかったのか、だめでしたね。隠し切れませんでした」
「彼女に出会えなかったら、結婚していなかったかもしれない」
それでも交際は順調に続き、二人はめでたくゴールインした。智さんがフリーターと決別して会社勤めをしてから6年がたったころ。「今の仕事で生計を立てていける」という自信がついたからだ。
その間、特に劇的なエピソードがあったというわけではない。しかし、一つ一つの出来事の"つながり"をあとから振り返って考えると、運命的なものを感じないわけにはいかない。
6年前、フリーターをやめてグラフィックデザインの会社に入っていなければ、ひかりさんと出会うことはなかった。仕事の厳しさに負けて、途中で会社を辞めていれば、やっぱりひかりさんと出会うことはなかった。
ひかりさんは、智さんのこれまでの人生でほとんど唯一「気が合う」と思えた人。そのような人に出会うチャンスは、あのとき、あの場所にいなければ訪れなかったのだ。
「数少ないチャンスの中で、そういう人に出会えたのは運命だったのかと思います。もし彼女に出会えなかったら、僕は結婚していなかったかもしれないのですから」
社内結婚必勝法 其の6
いらなくなったバイクは好きな人にあげるべし
※記事中の人物名は仮名です。
■社内結婚必勝法
社内結婚を果たした人たちに実際にインタビューして、どのようにして出会い、交際を育み、結婚にいたったのかを聞く。「婚活時代」といわれる現代の、新しい恋愛法則が見つかるも!?