職場で何かとトラブルを起こす「シュガー社員」。これまでの連載では、その"生態"を紹介してきましたが、彼らが生まれ育った時代背景を振り返ると、発生のメカニズムが見えてきます。前回のコラムで紹介した過保護な親=「ヘリ親」の存在も大きな要因のひとつですが、どうやらそれだけではなさそうです。
シュガー社員は「会社不信の時代」の産物である
今の若者が社会に出始めた頃、会社名が出るニュースといえば「大企業の倒産」「リストラ」「粉飾・横領」「サービス残業」「過労死」「偽装表示」など、暗い話題ばかりでした。会社が全国的に有名になるためには「ヒット商品を生み出すか、謝罪会見を行うか」というような状況では、彼らが「会社」というものに対して根本的な不信感を募らせてしまうのも、理解できる気がします。
一方、経営者からは「今の若手社員は全く理解できない。ほとんど新種だ」という声も聞かれます。「会社への帰属意識が低い」「仕事への執着を感じない」とも。しかし若者から見れば、信用できない「会社」との距離を取りながら、あえて"新種"となって自分を守っているのかもしれません。
これは会社が反省すべき点でもあります。しかし、だからといって仕事に身を入れない理由にはなりません。いずれ不埒な企業が淘汰された時に、きちんとしたスキルを身につけていなければ、困るのはシュガー社員自身ではないかと思うのですが…。
仕事がつまらないから「権利」を主張したくなる
バブル崩壊後の就職氷河期には、正社員の採用が急激に控えられた結果、中堅社員は「何でもこなすプレイングマネージャー」にならざるをえなくなり、新入社員を教育する先輩社員がいなくなってしまいました。忙しい職場では「欲しい人材は即戦力」となり、手の掛かる新人はあまり歓迎されなくなります。
数カ月で退職した若手社員に退職理由を聞くと、
「会社で仕事をきちんと教えてもらえなかったから」
という答えが返ってきます。新人に対してキメの細かい教育や指導を十分行うことができていないのが、会社の現状なのです。
とは言っても「まったく教えていないわけではない」という声も聞こえますが…。自立型の社員が少なくなり、依存型の社員が増えた現状を踏まえると、社員教育の方法も見直しが必要でしょう。仕事が分からないからつまらない、つまらないから自分の権利を主張したくなる。シュガー社員はいま、そんな悪循環にどっぷりと浸かっているのです。
「その他大勢」になってしまう現実に耐えられない
規律や規則に縛られることなく、やりたいことを好きなだけやらせて、潜在的な才能を開花させる――。教育環境の変化は、ある分野では目を見張る効果を上げました。スポーツの世界などで、若くして活躍する人が増えたのは喜ばしいことです。
その反面、恵まれた環境にありながら才能が開花しなかった場合、職場では非常に困った存在になってしまうことがあります。会社の仕事は、すべてがカッコいいわけではありません。地味で目立たない仕事をして会社を支える縁の下の力持ち、「その他大勢」の存在が不可欠です。
しかし「特別な自分」という意識が、職場で「その他大勢」になってしまう現実を受け入れられず、とまどってしまう。それで、
「嫌な仕事はやりたくありません」
「あの先輩は嫌いなので一緒に仕事したくありません」
といった言葉が、普通に出てきてしまいます。強すぎる個性が周りとの軋轢を生んで、問題行動を引き起こすのです。
優秀な若手社員には「甘さ」から目覚めた時期がある
このように見てみると、シュガー社員を生み出したのは社会だ、社会が悪いのだという言い方もあるかもしれません。シュガー社員の本人だけが悪い、とだけも言っていられなくなります。
しかし、このような世の中にいても、優秀な若手社員は大勢います。学生時代は先生から「おい大丈夫か、君…」と思われていた生徒も、あるときに目覚めて、将来を非常に嘱望される社会人になるケースもあるのです。いつ「甘さ」から目覚め、「依存型」から「自立型」に変わっていけるのか。周りの力で、どうにかできるものなのか――。
まずは、あなたの会社で「シュガー社員」を発生させないためには、どうすればよいか。そのためには、若手人材の「採用」と「育成」という2つの段階で、特に注意することが必要です。「シュガー社員」が問題を起こしたとき、会社は「採用の方法や基準は問題なかったのか」を検証する必要があります。また、採用時には問題ないと思ったのに、採用後に「シュガー社員」に変身してしまった場合には、育成の方法も検証すべきです。
次回は、企業側の防衛手段として「採用前にシュガー社員を見抜く方法」をお伝えします。
田北百樹子