田舎から出てきた弱々しい「子供」の正体
智さんがデザイナーとして働き始めてから1年後の春。去っていった同期の穴を補うべく、3人の新入社員が加わった。その中の一人が、地方の短大を卒業して単身上京してきた古田ひかりさんだった。
童顔で小柄。純朴な風貌で、ハタチという年齢よりもだいぶ幼くみえた。
「最初の印象は、子供みたいのが来ちゃったなという感じ。弱々しい雰囲気で、きっとうちの会社の厳しさには耐えられないだろうと思った。正直なところ、3人の新人のなかで最初にやめるだろうな、と思いました」
しかし、智さんの予想は思いっきり外れた。ひかりさんは、最初にやめるどころか、3人のなかで飛びぬけて仕事ができる“スーパールーキー”だったのだ。
仕事の量がハンパじゃないので、毎日終電帰りになってしまうような会社だ。ところが、ひかりさんだけは仕事が速く、遅くても9時ぐらいには帰ってしまう。それでいて与えられた業務はしっかりこなしていたし、デザインのクオリティも高かった。
「地方の聞いたこともないような短大でイラストを描いていたというんですが、仕事をさせてみると、なんでも器用にこなしてしまう。僕なんかよりも能力ははるかに上でした。半年たったころには、先輩たちも『この子はいけそうだから育てていかなきゃいけないな』と言っていました」