「結婚する気がないんだったら、別れてね」
会社は結婚相手を探す場所。そう考える陽子さんにとって、俊介さんとの交際そのものよりも、結婚できるかどうかが重要だった。
会社の飲み会で「いつまでに結婚したいか」という話題が出たとき、俊介さんは「まあ、30前かな……」と言っていた。二人は4つ年が離れていたので、俊介さんが30歳直前のころ、陽子さんは25、6歳になっている計算だ。「25歳ぐらいまでに結婚したい」と考えていた陽子さんにとってはベストのタイミングだ。
だが、念には念を入れて。つき合い始めて1年ぐらいたってからは、
「私と結婚する気ないんだったら、その時点で別れてね」
と、ときどきクギを刺すようにしていた。陽子さんにとっての恋愛は「結婚が前提」でなければならない。「無駄な恋愛はしない」タイプなのだ。そして、いよいよ陽子さんが25歳の誕生日が近づいてきたとき、彼女は俊介さんに言った。
「私、25の誕生日の前までにはっきりさせないと家を出されるから。どうする?」
もちろん「今度の誕生日にプロポーズしてよね」という意味だ。俊介さんから「はっきりさせるよ」という言葉を引き出したうえで、誕生日の旅行先を手配した。旅行代理店の友達に「今度、プロポーズさせようと思うんだけど、どこがいいかな?」と聞きながら。
しかし、完璧にお膳立てしたはずの"プロポーズ大作戦"だったが、最後に予期せぬことが起きた。「はっきりさせる」と約束していた俊介さんが、プロポーズもしないで寝ようとしてしまったのだ。でも、陽子さんはもちろん寝させなかった。
「『ねぇ、ねぇ、なんか言うことあるんじゃないの?』って聞いたら、寝ぼけながら『結婚してください』と口にしました。私はとりあえず『ちょっと考えさせて……』と言ってみましたけど(笑)」
それから1年後、陽子さんは当初の目標どおり、女の直感で見込んだ「社長になれそうな人」と結婚式をあげた。