アラフォー社長困った!若手社員の「なんでもメール主義」

富士フイルムが開発した糖の吸収を抑えるサプリが500円+税で

   いわゆるアラフォー世代のKさんが、仲間と一緒に大手のIT系企業を退職したのは8年前、まだアラサーだったころです。折からのIT革命、ネットバブルに乗じるかたちではありましたが、Kさんたちには大企業をスピンアウトしても起業する確固たる目的がありました。

>>ITとほほ観察記・記事一覧

緊急連絡もメールで済ませてしまう

   大手で大規模システムの開発に実績を持つ企業であったがゆえに、ネットビジネスへの対応が遅れがちだったこともあります。しかし、もっとも大きな理由は、大企業にありがちな、上下や企業グループの関係に縛られたり左右されることなく、もっと自由に働きたい、ということでした。

   したがって、Kさんの会社では、新人社員でも転職組でも、そのキャリアに縛られることなく、自由に仕事や経営に意見することが暗黙の了解として認められてきました。また、出退勤もうるさいことは言わず、「仕事ができていれば、自己責任でサボったり、休んだりしてもいいじゃない」という風潮がありました。

   当初、営業担当と開発担当を全部あわせても5~6人でしたが、元来が大手で結果を残してきた腕利き揃い。瞬く間に仕事の依頼が増え、あっという間に60人規模まで会社が大きくなりました。

   「一時は、毎月2~3人ずつ入っていたこともあったぐらい」とKさん。

   ところが、社員が30人を超え、20代の若い転職組や紹介による新人社員が入ってくるようになって、事件が起こりました。ある若い社員が、上司が外出中にクライアントからの緊急の連絡を受けたのですが、彼は上司にメールを打っただけで済ませていたのです。

   たまたま、その上司が先方にそうとは知らずに外出先から連絡を入れて事なきを得ましたが、これを機会に社内に探りを入れてみると、メールとケータイがちょっとした問題となっていたことがわかりました。

仕事のフリをして2ちゃんやミクシィに没頭

「私自身が30代の部下と喫煙ルームに行ったとき、先に2人の若い社員がいたのですが、挨拶もそこそこにケータイをカチカチやっていた。彼らが出てから部下に尋ねると、ケータイの掲示板で互いにやり取りしてたんでしょう、と言う。すぐそこにいるのに?と驚いて聞き返すと『あいつら、ケータイ掲示板に会社の裏サイトつくってるんですよ。そこで悪口とか書きあってたんだと思いますよ』って言われました」

   彼らは仕事ができないわけではなく、むしろ優秀なエンジニアなんです、とKさんは続けました。

   そこで、あらためて幹部クラスに話を聞くと、出退勤の連絡はもとより、業務の進捗、仕事上の問題や課題の相談まで、若手はすべてメールを使って伝えてきていることがわかりました。なかには、連絡や仕事でメールを使っているフリをして、2ちゃんねるやミクシィに没頭していたので注意した、というケースもあったそうです。

   これでは社内の風通しが悪くなると思ったKさんは、会社のフロアに入ったら原則ケータイは使用禁止、一日に1回、部下が上司に仕事の進捗や状況について口頭で報告するショートミーティングを持つことを方針として打ち出そうとしました。

   ところが、自由に意見を言い合う社風が災いし、社内からは猛反対が続出。仕事よりも、この方針に対する賛否を「メールで」やり取りすることのほうが優先されてしまったぐらいでした。

辞表もメールで送ってくる

「若手からは反対意見の長文メールがドッと押し寄せました。ああ、こんなときでもメールなんだ、と苦笑せざるを得ませんでしたね。ただ、ベテラン組からも重要クライアントには緊急用に携帯番号を知らせてあるから、フロア内でケータイ禁止はナンセンスと苦情を言われてしまいました」

とKさんはため息まじりに言います。

「今回わかったのは、ぼくらの考える自由と若い連中の考える自由との『要件定義』がまったく違うんだ、ということ。ぼくらは組織や集団ありきで、そのなかでの風通しの自由と考える。彼らは、彼ら自身が組織や集団にいてなお、他人から最低限しか干渉されないことと考えているようなんですね」

アラフォーにとってメールはプライベートもしくは裏回線という感じですが、若い世代は他人と接触せず、したがって干渉もされにくい便利な「オモテの」伝達ツールと認識されているのでしょう。

「やはりIT系の企業にいる友人は、20代の部下からの辞表をケータイメールで受け取ったと言ってました。ちゃんとペーパーで出せと返信したら、テンプレートをPCのほうへ送ってください、と返事が来たそうです(苦笑)。対策ですか? うーん、いまも考えているのですが、いまのところは彼らからウザがられない程度に声をかけて、徐々にコミュニケーションを深めていくぐらいしか思いつかないんですよね……」

   単なる世代間ギャップなのか、それとも新たなビヘイビアの問題なのか。あなたの会社や周囲ではどうですか?

井上トシユキ

>>ITとほほ観察記・記事一覧

井上トシユキ
1964年、京都市出身。同志社大学文学部卒業(1989)。会社員を経て、1998年よりジャーナリスト、ライター。TBSラジオ「アクセス」 毎週木曜担当。著書は「カネと野望のインターネット10年史 IT革命の裏を紐解く」(扶桑社刊)「2ちゃんねる宣言 挑発するメディア」(文芸春秋社 刊)など。
姉妹サイト