「いまどきの若手はホメて使え!」 西武・渡辺監督にみる「育成術」

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    2008年の日本シリーズは、巨人と西武が互角の戦いをしている(11月6日現在)。昨季はBクラスに沈んだ西武が、若手選手の「のびのびプレー」でここまで善戦すると予想した人はいなかったに違いない。渡辺久信監督の「叱らずホメる」「行動を評価する」「数字を使う」という手法――。職場のマネジメントに悩む上司には、参考になるのではないか。

6連敗しても「一つ成長したじゃないか!」

    埼玉西武ライオンズの2007年シーズンは5位に終わり、26年ぶりのBクラスとなった。オフにはカブレラ(現オリックス)と和田(現中日)という主砲がチームを去り、誰もが「2008年の西武はダメだ」と思っただろう。

    しかし、新しく就任した渡辺監督だけは何かを信じていたようだ。開幕戦に負けた試合後のミーティング。ミスを犯した選手をヘッドコーチが叱ろうとしたとき、渡辺監督はこう言って制したという。

「今年のウチはそういうチームじゃないんで。叱るようなことはしないでください」(スポニチ Sponichi Annex、08年9月27日)

    ベテランを揃えた常勝チームならいざしらず、下馬評で最下位候補とされた若手中心のチームで、こんな「宣言」はなかなか言えるものではない。

    5月の初めまでに一度は波に乗ったものの、その後のセ・パ交流戦は10勝14敗。最後は6連敗という散々な成績だった。しかし渡辺監督は選手を叱らずに、励ましたという。

「昨年は9勝15敗だったんだろ。一つ成長したじゃないか」(iza、08年8月23日)

    渡辺監督は、常々「選手のミスは使っている監督が悪い」と言っているそうだ。いまは成功と失敗の経験を積んでいるのだから、結果に一喜一憂してもしようがないということだろう。ただしこれは、「いつかできるようになる」と、選手の潜在的な能力を信じていなければできない我慢だ。

若手は「結果」ではなく「行動」を評価するといい

    『上司のための戦略的ほめ方・叱り方』(宝島社新書)の著者である石田淳氏は、渡辺監督の手法は“行動科学マネジメント”の視点から見て、非常に理にかなっていると指摘する。

「人間には“自分のとった行動をホメられると、その行動を自発的に繰り返す”という行動原則があります。ある目的達成のために望ましい行動をしたときには、その行動をホメることで、よい結果につながるのです」

    たとえば渡辺監督は、選手のエラーが失点につながっても「あれは勝負にいったプレーだから」と責めなかった。

「成長過程にある若手選手は、よい結果だけを評価されても、それを再現することができません。渡辺監督は結果だけにとらわれず、よい行動をホメたのだと思います。ホメられた行動を反復すれば、それを再現できる実力が付き、結果が出るようになるのです。“次は取り返す”というモチベーションの向上にもつながります」

    また、結果を評価するときには、客観的な数字をうまく使うことがよいという。渡辺監督が交流戦の後に「昨年は9勝15敗だったんだろ」と勝敗数を持ち出したのも、理にかなっているというわけだ。

「交流戦全体では負け越しでも、去年の9勝より今年の10勝の方が、わずかですが確かに成長している。これは慰めではなく事実です。反省や叱責にばかり意識がいくと、成長の事実を見落としてしまいます」

    しかし、最近の若いモンを見ると、ついつい「なぜできない!」「やる気あるのか?」と言いたくなるところ。自分もそうやって育ってきたという意識もある。だが、石田氏は厳しく指摘する。

「世の中は変わったんです。社会が豊かになり価値観が多様化する中では、かつてのような精神論だけでは人は動きません。いまどきの若者には、人格と行動を明確に分けて“よい行動”をホメる方が成長させやすいのです」

ポスト星野の「理想の上司」は渡辺監督か

    プロ野球の監督といえば、「理想の上司」アンケートで8年連続トップを取った星野仙一氏だ。いまではすっかり株を落とした星野氏は、典型的な親分タイプ。結果が出なければ怒鳴り、ベンチを蹴り、時に鉄拳制裁を加える。どうやら、そんな時代は終わったようだ。

    石田氏はこれからの上司は「プレーヤー意識を捨てて“プロ上司”となるべきだ」と説く。

「名選手が名監督になるとは限りません。確かに過去の実績は説得力となり、やって見せることでお手本を示すことはできます。でも多くの人にとって、天才の結果を再現することは困難です。上司になったら、社内で転職するつもりで頭を切り替えて、体系的なマネジメントのスキルを身に付け、臨機応変に使い分けることが必要です」

    かつて常勝・西武のエースだった渡辺監督は、現役生活の最後を台湾で終えている。どうやら、その間に、

「感性でやっていた野球を、考えるようになった」(NNA.ASIA、08年10月2日)

という転換期があったらしい。

    日本シリーズでは、前半戦で不調だった西武・中村選手が第4戦で2打席連続ホームランを打ち、チームを勝利に導いた。第2戦の第1打席でショートフライに倒れた中村選手に、渡辺監督は

「いいんだ。気にしないで行け」(iza、08年11月5日)

と、いつものように声をかけたという。

    さて、大詰めを迎えた2008年のプロ野球。「のびのびプレー」の渡辺西武は日本一になることができるだろうか。結果次第では、来年の「理想の上司」に渡辺監督の名前が挙がっているかもしれない。

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